記事サンプル:カジュアルにワインと料理を楽しめる「ワイン食堂ながた」を訪ねてみた。
ラザニアなどの名物料理とワインを気軽に楽しめるカジュアルなお店だ。2階にはパーティールームがあり、おひとりさま、家族連れ、2次会などさまざまなシーンで利用できる。今回は店主の永田崇(ながた そう)さんに、お客様への想いやお店のこだわり、夢などについてお話をうかがった。
- 老舗のバーから「カジュアルにワインを楽しめるお店」に
- 「このままではいけない」と東京で料理修行
- 名物はラザニア、おひとりさまの食事も歓迎
- 「人」ではなく「店」にお客様をつける
- 子どもたちと大人をつなぐ「ハブ」を目指して
①老舗のバーから「カジュアルにワインを楽しめるお店」に
「ワイン食堂ながた」の歴史は、約50年前にさかのぼる。永田さんのお父様がバーを始めたのがきっかけだ。
「カウンターとボックス席が1つの、小さなバーでした。そこから3回引っ越しをして、今のお店は4軒目なんです。以前はドロップインという名前のお店でした。もともとは父が1人で経営していましたが、1人では大変だということで、僕も一緒にお店で働くことになったんです。」
お父様はコロナ禍を機に引退し、現在は永田さんがお店を切り盛りしている。名前を「ドロップイン」から「ワイン食堂ながた」に変えたのはなぜだろうか?
「わかりやすく、シンプルな名前にしたかったからです。また、ヨーロッパではランチにワインを飲んでいるんです。それくらいカジュアルに、気軽にワインを楽しんでもらえればなと思ってこの名前を付けました。」
永田さんがお父様の仕事を継ごうと思ったのはなぜだろうか?
「僕が小さいころ、母に連れられて父のお店「ドロップイン」に行くと、いつもたくさんのお客様に囲まれている父の姿がありました。その姿に憧れたのがきっかけです。最初は料理を仕事にするつもりはありませんでした。ただ、人が集まる場所を作りたいと考えたとき、やはりおいしいお酒と食事が必要だという考えに行きついたんです。今、同じ畑で勝負することで、幼い頃にみた、たくさんのお客様に愛されていたドロップインが、いかにすごかったかを痛感しています。」
今は料理の奥深さにも魅せられているという。
「料理はやればやるほど難しいですね。一定のラインにたどり着いても、まだまだ先があります。修業時代は怒ってくれる人・教えてくれる人がいますが、独り立ちしたらそんな人はいないですからね。自分の思い通りにできる分、正解を自分で作らないといけない難しさがあります。お客様には自信を持てる料理だけを出しています。」
②「このままではいけない」と東京で料理修行
永田さんは高校を卒業後、しばらくお父様の店を手伝っていた。
「マスターの息子ということで、あまり怒られることはありませんでした。正直「ちょろいな」と高をくくっていました。しかしいざ自分でお店をやるとなったときに「このままだとまずいぞ」と気づいたんです。」
焦りを感じた永田さんは、ひとつの決意をする。
「このままでは、ずっと何もできないままだと感じました。地元ではどこに行っても「ドロップの息子」という肩書きがついてきます。ドロップインを出なきゃいけないと思いました。」
誰も知らないところに行けば、厳しくしてもらえるだろう。そう考えた永田さんは、ドロップインを離れ、修行のため東京に出る。修行に出た永田さんは、初日から仕事で料理の「洗礼」を受ける。
「修行したのは、創作和洋折衷的な、洋風居酒屋です。僕は面接のときに、飲食を3年やっていますとアピールし、料理できますという顔で入社しました。そこで、初日にお通しを200個作れと言われたんですね。小鉢にお豆腐を盛る仕事です。最初は綺麗にできていたのですが、最後の方がちょっと崩れてきて、ゆっくりやっていたら料理長が勢いよくやってきて『お前、豆腐も盛れんのか!』と怒られたんです。自分は本当に何もできないんだなと痛感しました。」
そこから2年間、永田さんはお店で料理の研鑽を積み、最終的にはお店のナンバー2に昇りつめた。
「まずは鍵を預かり一番に出勤します。そして「○○さんは今日はこの料理をつくる」「△△さんはこの料理」と全員の料理の下ごしらえをします。それから自分の料理の仕込みをして、終わった後は料理長にピタッとくっついて、師匠の補助をしながら、1つずつの技を盗み、自分のものにしていったんです。」
永田さんはそのお店で、師匠と呼べる人に出会ったのだそう。
「僕の師匠は、僕が入社した当時は2番手で、後に料理長になりました。めちゃくちゃ厳しくて、でもめちゃくちゃ優しい人でした。オンとオフの切り替えがしっかりしていて、やるときはやる、尊敬できる人です。力を抜くところと、ギアを上げるところの使い分けは今でも役に立っています。リーダーがギアを上げて、メンバーがそれを察知してガンガン仕事する、そのリズム感が大切だというのも学びました。」
料理のテクニックだけでなく、働き方や姿勢も含めてその人から学んだというわけだ。そして永田さんはそのお店で2年、その後半年間別の企業で学んだあと、岐阜に帰ってきた。岐阜で約2年間別の企業で働き、その後、お父様の待つお店に戻り、満を持して「ワイン食堂ながた」を開いたのだ。
コロナを機に永田さんのお父様は引退したが、今も一部のワインの仕入れを担当している。
「先代の時代からお店を知っているお客様は、先代が選んだものなら間違いないと安心するんですね。父の選んだワインでハッピーになれるお客様のために、残ってもらっています。あと、何かやっててもらわないと少し心配というのもあります(笑)。だから仕事をお願いしているというのもありますね。」
③名物はラザニア、おひとりさまの食事も歓迎
「ワイン食堂ながた」は、2階がパーティールームになっており、結婚式の2次会などでも利用できる。
「パーティールームは貸切にできて、30人くらい入ります。身内だけのパーティーなどで使ってもらったり、会議をやってそのまま宴会したり、といったことができます。」
ネットの口コミの評価が高く、昔からのお客様はもちろん、新規のお客様もたくさん来てくれているという。隠れ家的な雰囲気の良さや、接客、そして料理にも高評価がついている。
「イタリアンとかフレンチの専門店で修行してきたわけではないので、少し邪道なところはあるかもしれません。」
永田さんはそう謙遜するが、そのカジュアルさ、自由さが今の時代に合っているのだろう。
「居酒屋みたいなノリでお越しいただければ良いなと考えています。」
そしてお店の看板メニューがラザニアだ。口コミでもラザニアを評価している意見が多い。一般的なラザニアよりも平べったく、パンにつけるのがおすすめの食べ方だ。またピザも評判だ。
「ピザは大昔のドロップイン時代からのレシピを、少しずつ改良しています。窯ではなくオーブンで焼くタイプで、生地がパリパリになるクリスピータイプのピザです。」
また、スペインから仕入れている生ハムも強みだ。
「生ハムで有名なのはイタリアのプロシュートですが、少し塩分が高くなってしまいます。メロンなどのフルーツと一緒に食べるのが一般的です。一方、当店で仕入れている生ハムは、スペインのハモンセラーノです。あっさりしていて、そのまま少しオリーブオイルをたらすだけで充分おいしいんですよ。僕はスペインの生ハムが好きなので。スペインのものを使っています。とりあえず枝豆、の感覚で生ハムを頼む人が多いですね。」
さらに、カジュアルにワインを楽しめるお店なのがよくわかる、こんなエピソードもある。
「ワイン食堂ながたで始めるとき、父は最初、ワイングラスを置かず、マグカップでワインを出そうとしていたんですよ。さすがにやめましたけど、それくらい気取らず、カジュアルに楽しんでほしいと考えています。」
ワイン食堂というと、お酒が飲めないと入りづらい印象を持つ人もいるかもしれないが、こちらはお酒は飲めないけど料理が楽しみという人も多く訪れる。女性が一人でふらっとご飯を食べに入りやすいのも大きな強みだ。
「お仕事帰りのお客様が、パスタやお肉を食べに訪れることも多いですね。おひとり様も大歓迎です。」
おひとり様でお店を気に入ってくれたお客様が女子会や懇親会を開催するなど、そこからリピートにつながることも多いという。
⑤子どもたちと大人をつなぐ「ハブ」を目指して
永田さんに、今後の展望をうかがってみたところ、意外な答えが返ってきた。
「実は私は、本業はこのワイン食堂なのですが、福祉も手掛けてるんですよ。話すと長くなってしまうのですが、サクッと言うと放課後デイサービスです。」
通常のデイサービスは介護認定を受けた高齢者向けの通所支援サービスだが、放課後デイサービスは小中学生が対象となる。何らかの障がいを抱えている子どもたちや、障がい者手帳を持ってはいないものの、グレーゾーンと呼ばれる子どもたちが通う施設だ。2012年から始まったサービスのため、あまりこの制度になじみがない人も、まだまだ多いのではないだろうか。永田さんは、知人から放課後デイを手伝ってほしいと言われ、企画やアドバイスをしているという。
「あと、ラジオもやっているんですよ。 FMわっちという岐阜市のローカルラジオ局で、隔週金曜日を担当しています。今年で4年目です。TSUMUGIさんみたいに、岐阜で頑張っている人や、起業している人を応援する番組です。」
番組をきっかけにつながった人と放課後デイでコラボして、子どもたちにいろいろな体験をさせているのだという。
「たとえば昨年は、花火師の方がゲストで出てくれました。その方に『子どもたちと一緒に何かできませんか?』と相談したところ、線香花火をみんなでつくるワークショップが実現したんです。」
花火を作る経験なんて、普段なかなかできるものではない。めちゃくちゃ面白そうだ。
「うちは飲食店ですが、ただの飲食店にとどまらず、人をつなげて夢を呼ぶ、ハブ(中継地)のような役割を果たしたいと考えています。お店というよりも、作戦基地ですね、子どもたちが描いた絵を飾って展覧会を開くとかをやってみたいですね。」
もともとずっと「何かワクワクすることをやりたい」と考えていた永田さん。放課後デイをサポートする依頼を受け、「子どもたち」というキーワードがピタッとはまり「これだ!」と思ったんだそうだ。
「飲食店とはかけ離れてしまいますが、子どもたちが安心できる場所をつくりたい。子どもたちの未来のために何かをしたいというのが、今後の展望です。」
「ワイン食堂ながた」は、常連さんに愛されるお店から、誰でもカジュアルにワインを楽しめるお店へと、時代に合わせて変化してきた。そしてラジオやデイサービスなど、どんどん活躍の場を広げていく永田さん。これからこのお店が「飲食店」という枠組みを越え、どのような進化を遂げるのか、目が離せない。お酒が好きな人も苦手な人も、ぜひ一度訪れてみてほしい。
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