水を整え、日本の魚食文化を次世代へつなぐ「株式会社ベルデアクア」を訪ねてみた。
持続可能な水産業の実現を目指し、革新的なろ過システムを活用した陸上養殖や、独自の浄化技術によって生まれた水産物ブランド『極水(きょくすい)』を展開する会社である。 今回は、代表取締役社長の竹廣 洋児(たけひろ ようじ)様にお話をうかがった。
- 海への情熱が紡いだ、新たな挑戦への種
- 『極水』が体現する、水の質がもたらす革新的な旨み
- 誰でも、どこでも。地域をつなぐプラットフォームへ
- 次世代、そして世界へ。美味しい魚が紡ぐ笑顔のバトン
①海への情熱が紡いだ、新たな挑戦への種
一宮市に本社と陸上養殖ラボを構え、水産業に新たな視点をもたらしている「株式会社ベルデアクア」。彼らが追求するのは、単なる効率的な養殖の普及ではなく、日本人が古くから愛してやまない魚を、持続可能な形で食卓へ届けることだ。
竹廣社長のキャリアは、大手電機メーカーでのマーケティングや経営企画から始まった。一見、水産とは無縁の経歴だが、その根底には、30年以上にわたり海に潜り、自ら魚を追い、各地の漁師と親交を深めてきた「海と共に歩んだ人生」がある。
趣味の枠を超えて海に深く関わり続けてきた一人の愛好家としての視点から、日本の海が直面している深刻な変化を敏感に感じ取ってきた。
「若い頃からずっと海を見てきましたが、ここ数十年の変化は非常に大きいです。海水温の上昇によって海藻の分布が変わり、かつては豊富だった魚がいなくなる。親しくしていた漁師の方々が、獲れる魚がいなくなったことで廃業せざるを得ない状況も見てきました。このままでは、日本が誇る豊かな魚食文化そのものが衰退してしまう。その強い危機感が、私の活動の原点になっています。」
竹廣社長は、自然環境に左右される従来の漁業を補完し、持続可能な食料供給を実現するためには、環境を制御できる陸上養殖が不可欠であると確信した。
しかし、単に魚を生産するだけでは不十分だ。消費者が心から納得する美味しさを両立できなければ、文化としての継承は難しい。そこで竹廣社長は、異業種であるプールの浄化や温泉施設のろ過技術に注目し、それを養殖の世界へ転用する決断を下したのである。
環境と共生する事業でありたいという想いは、社名にも込められている。「ベルデ」はイタリア語で“緑”を意味し、「アクア」は“水”を表す言葉だ。
「この名前には、環境を守りながら豊かな水の資源を次世代へつなぐという決意を込めました。私がこれまでのキャリアで培ってきたデジタルの知見と、実体験を通じた魚への理解。これらを組み合わせて、今の時代に合った新しい養殖の形を発信しようと決めたんです。」
異業種で培った論理的思考と、海と向き合い続けた情熱。その両輪がかみ合ったとき、ベルデアクアの挑戦は明確なかたちを帯び始めた。ここから、新たな水産業への一歩が踏み出されたのである。
②『極水』が体現する、水の質がもたらす革新的な旨み
ベルデアクアの取り組みを象徴するのが、水産物ブランド『極水(きょくすい)』だ。同社が最も届けたいのは、この“美味しい魚”そのものである。
その筆頭である「クエタマ」は、高級魚クエと大型のタマカイを掛け合わせた品種である。タマカイはハタ科に属する大型魚で、温暖な海域に生息し、成長すると2メートル近くに達することもある。成長力と脂乗りの良さから、養殖分野でも注目されている魚種だ。
その掛け合わせによって生まれたクエタマは、上質な脂の甘みと、弾力のある身質が特長だ。噛むほどに旨みが広がり、後味は驚くほど澄んでいる。
その美味しさを支えているのが、独自の電解ろ過技術である。
「養殖魚に対して独特の臭いがあるというイメージを持つ方もいらっしゃいますが、その原因の多くは飼育水に含まれる微細な成分にあります。私たちの技術は、電気化学的に水を浄化することで、魚にストレスを与えず、クリアな環境を維持します。水を徹底的に整えることで、魚本来の旨みだけを純粋に引き出す。だからこそ、ブランド名を『極水(きょくすい)』と名付けました。」
この技術的な裏付けによって生産される魚は、料理のプロからも高い評価を得ている。寄生虫のリスクを極限まで抑えたクリーンな環境で育つため、身質が優れているのはもちろん、肝やアラといった部位まで余すところなく活用できるのが大きな特徴だ。特に刺身や鮨といった繊細な料理において、そのクリーンな味わいが際立つ。
「熟成させて旨みを引き出す際も、元々の水質が良いため、非常に上品な仕上がりになります。私たちは設備メーカーではありますが、本当に届けたいのは『極水』という“美味しい魚”です。技術が優れているのは当然として、最終的に美味しいと言っていただけることが、私たちの設備の価値を証明することになるからです。」
ただ魚を大きく育てるのではなく、いかにして美味しい魚へと仕上げるか。設備メーカーとしての技術力と、食文化への深い理解が融合することで、『極水』という唯一無二のブランドが確立されている。
③誰でも、どこでも。地域をつなぐプラットフォームへ
ベルデアクアが目指すのは、この「美味しい魚を創る仕組み」を全国、そして世界へ広めるためのプラットフォーム化である。竹廣社長は、魚を育てることの難しさを知っているからこそ、そのハードルをテクノロジーで下げ、あらゆる人が水産業に参画できる環境を整えようとしている。
「これまでの養殖は、職人の勘や経験に頼るアナログな部分が非常に多かった。しかし、私たちのシステムは水質を安定的に管理できる仕組みを整え、自動運転も可能にしています。手順さえ守れば、専門的な知識がなくても高品質な極水を育てることができます。海のない内陸地や、工場の空きスペースなどを活用して、どこでも生産拠点を構築できるのが強みです。」
この革新性は、すでに新たなビジネスの形を生み出しつつある。仕入れの不安定化に悩む飲食チェーンや、地域活性化の柱を模索する自治体、さらには新規事業を検討する異業種企業にとって、このシステムは「自社ブランドの美味しい魚を持つ」という夢の実現手段となっているのだ。
「名古屋や岐阜などの近隣地域でも、自社養殖に興味を持つ飲食店経営者の方々が増えています。自分たちが提供する魚を、納得のいく品質で育てることは、お店のブランディングにも直結します。私たちが販売までしっかりサポートすることで、参入した方々が収益を上げ、持続可能な事業として地域に根ざしていく。そんな成功の連鎖を作ることが、我々の役目だと思っています。」
生産コストやリードタイムの短縮といった、製造業的な視点での効率化も怠らない。育成期間を短縮し、生産密度を高めることで、コストを抑えつつ高品質な魚を供給する。技術力によって生産性を高めることは、結果として「美味しい魚を食べられる喜び」をより多くの人に提供することに直結するのである。
「特定の誰かだけではなく、このプラットフォームに関わるすべての人が豊かになる。そんな繋がりを、水産業の中に作っていきたいと考えています。」
その言葉からは、単なる設備供給にとどまらない、産業全体への責任と覚悟がにじむ。ベルデアクアが描く未来像は、技術革新と人の想いが結びついた、新しい水産業のかたちそのものだった。
④次世代、そして世界へ。美味しい魚が紡ぐ笑顔のバトン
竹廣社長とベルデアクアの視線は、今、さらに遠い未来を見据えている。それは、日本の豊かな魚食文化を単に保存するだけでなく、現代のテクノロジーと融合させることで、次世代へとアップデートしていく挑戦だ。企業理念に掲げた「多様な魚種文化をつなぐ、広げる」という言葉は、彼らにとって揺らぐことのない指針となっている。
「今のペースで水産資源が減り続ければ、将来的に魚は手が届かない高級品になってしまうかもしれません。そんな未来は絶対に見たくない。どこでも、誰でも、美味しい魚を食べられる。そんな仕組みを、世界中の当たり前にしたいんです。」
一宮の地で始まったこの挑戦は、現在、大学の研究機関とも連携を強化し、加速度的に進化を続けている。クエタマだけでなく、カワハギ、サーモン、ウニ、そしてウナギ。対象となる魚種が増えるたびに、日本の食卓に並ぶ「美味しい」の選択肢が守られていく。
竹廣社長にとって、魚を愛することは、その背景にある文化と、それを受け継ぐ人々を愛することに他ならない。
「私の原点は、単純に魚と海が好きだという非常にシンプルな気持ちです。その情熱をベースに、デジタルの力を活用して、水産業を誰もが憧れる産業へと変えていきたい。私たちが育てた美味しい魚が食卓に並び、そこから会話や笑顔が生まれること。その一助になれることが、何よりの喜びです。」
水を整え、心を込めて育み、最高の状態で届ける。ベルデアクアが展開するこの取り組みは、日本の、そして世界の魚食文化を支える確かな基盤となりつつある。環境を損なうことなく、最高に美味しい魚を作り続ける。その航路は、確実に明るい未来へと続いている。その歩みの中心にあるのが、『極水クエタマ』をはじめとするブランド魚の存在である。
「水を極める」ことで、魚の常識を塗り替えつつあるベルデアクア。竹廣社長の情熱と独自のデジタル技術が融合して生まれた『極水』は、私たちの食卓に、再び豊かな彩りを取り戻してくれようとしている。
美味しい魚がある幸せを、当たり前に次の世代へ。一宮の地から始まったこの挑戦は、今、確かな希望となって大海原へと漕ぎ出している。
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