役目を終えたものに新たな命を。リサイクルショップ「RE-SQUARE BANUL」を訪ねてみた。





単なるアンティーク品やヴィンテージ品を扱う場所ではなく、ヒトとモノが出会い、新たな物語が始まる場所として注目を集めている。 今回は、代表取締役を務める若山 陽一郎(わかやま よういちろう)さんにお話をうかがった。
- 常識を覆す、まるでギャラリーのような空間
- 人生の旅で出会った「恩送り」の連鎖
- 失敗をしない人生が一番の失敗
- レトロブームと海外需要を捉えた次なる一手
①常識を覆す、まるでギャラリーのような空間
住宅街と工業地帯が混在するこのエリアに、ひときわ異彩を放つ空間がある。店内には、中古家具や雑貨、アンティーク品など1万点以上の商品がずらりと並ぶ。一歩足を踏み入れると、時間を経てきたヴィンテージ品一つひとつが独特のオーラを放ち、まるで宝探しを楽しむようなワクワク感と高揚感に包まれる。
かつてプロダンサーとして活躍した若山社長が、起業家として新たなステージへ進むことを決意し、最初に手掛けた事業が遺品整理や不用品回収だった。そこで、まだまだ使えるモノや、捨ててしまうにはあまりにも惜しいヴィンテージ品などが、ゴミとして処分される現実に直面する。
「古いモノは、その価値を見極める専門知識や、次に売れるまでの時間が読めないことから、一般的なリサイクルショップでは買い取るのが難しいのが現状なんです。そうした、まだ使える多くの品々が、価値を認められずに捨てられていく。処分するにも費用がかかる上、地球環境にも良くない。誰も得をしない、この状況をどうにかして変えたかったんです。」
この強い想いから、2016年にリサイクルショップ事業をスタート。店名である『BANUL(バナル)』は、「BREATHE A NU LIFE(新しい命を吹き込む)」を由来とした造語だという。本来「NEW」と綴るところを「NU」と表現したのは、ヒップホップに精通する若山社長ならではの遊び心だ。
「ヒップホップでは、新しい組み合わせを“New Unit (NU)”と表現することがあるんですが、異なる要素が組み合わさることで新たな魅力が生まれる、そんな場所(SQUARE)になればいいなという思いを込めて『RE-SQUARE BANUL』にしました。」
単にモノを売るだけでなく、訪れる人同士やスタッフとの交流が生まれ、新しい発見や価値観が創出される場所としての役割を目指している。実際に、インスタグラムを活用した情報発信やガレージセール、イベントなどを積極的に開催し、多くの人が集うコミュニティの中心地となっている。また、商品の魅力を最大限に引き出すため、店舗のディスプレイや空間演出にもこだわりが詰まっているという。


②人生の旅で出会った「恩送り」の連鎖
若山社長が手掛ける事業の根幹には、彼の人生観を形成した「旅」の経験がある。バックパッカーとして世界を巡る中で、現地での出会いや出来事に感銘を受けることが多く、特に、カンボジアで出会った子どもたちの屈託のない笑顔に心を動かされたという。
BANULでは、売り上げの一部を『NPO法人 GLOBE JUNGLE(グローブジャングル)』を通じてカンボジアの孤児院へ寄付している。また、2014年にはカンボジア・クチャウ地区の学校建設プロジェクトに参加し、文房具や遊具などの寄付も実施。その後も毎年スタッフと共に現地を訪れるなど、現在も継続的な支援を続けている。
「支援というのは、『お互いが幸せになること』だと思っています。カンボジアの子どもたちへお金という支援を通じて、僕たちは心という支援をいただいてる。お互いが助け合う関係こそが、本当の意味での支援なのかなと思います。」
これらの支援活動は、かつて自身も多くの人に支えられてきた経験から、単なる「恩返し」ではなく「恩送り」の精神に基づいているという。BANULのロゴに掲げられた「世界の子どもたちへ」というメッセージは、そんな若山社長の強い想いが込められている。
「僕たちが日本でゴミとして捨てていたものが、カンボジアの子どもたちの未来を創るための資金になる。この循環こそ、僕が目指す理想なんです。」
BANULは、まさにその恩送りの連鎖を生み出す場所だ。日本の古き良きモノに新たな価値を与え、その利益の一部が海を越えてカンボジアの子どもたちの笑顔に繋がる。そして、その子どもたちが将来、また誰かに笑顔を届けていく。このような壮大な循環を、若山社長は自らの事業を通して実現しているのだ。


③失敗をしない人生が一番の失敗
若山社長のもう一つの顔は、多くの人に生き方を伝える講演家だ。「失敗をしない人生が一番の失敗」と語るように、自らの波瀾万丈な人生経験を元にした講演を全国各地で年間200本以上も行っている。
彼の生き方の核にあるのは、「旅するように生きる」という考え方だ。成功や結果を目的とするのではなく、自身の心がときめく方向へ進むことを大切にしてきた。彼にとってはそのすべてが「旅」であり、その過程で出会った人、出来事、モノとの出会いが、すべて今の自分へと繋がっているという。目の前のことに心を込めて一生懸命取り組むことで、予測も想像もできなかった「まさかの扉」が開き、本当の自分に出会えるのだと語る。
講演テーマは多岐にわたるが、中心にあるのは「何者でもない僕が、何者かになる物語」ーー。さまざまな経験をしてきたからこそ語れるリアルな言葉が、聴衆の心を掴む。特に、多くの人が失敗を恐れて行動できずにいる現状に対し、「失敗は次の成功へのヒントであり、何もやらないことが人生における最大の失敗だ」と力強く訴えかける。
「僕の仕事は、『多くの人に夢と希望を伝えること』だと思っています。不用品回収、リサイクルショップ経営、講演業と多岐にわたりますが、すべてが一つの大きな目的に繋がっていて、それぞれが僕の想いを表現する方法なんです。」
失敗談を包み隠さずに話すことで、聴衆の共感を呼び、多くの人に勇気を与える。若山社長の言葉に耳を傾けた多くの人々が、「自分もやってみよう」という一歩を踏み出すきっかけを得る。BANULという空間もまた、自身の生き様そのものを具現化した場所であり、訪れる人々は、モノを通じて若山社長の信念に触れ、自分の人生を「旅」する勇気をもらっているのだろう。

④レトロブームと海外需要を捉えた次なる一手
近年、Z世代を中心に「レトロブーム」が大きな広がりを見せ、新品にはない温かみやストーリーを持つ昭和レトロやヴィンテージアイテムが再評価されている。BANULは、このニーズに応える唯一無二の存在であり、従来のイメージを覆す「次世代型」のリサイクルショップとして成長を続けている。
若山社長は、今後の展望について、国内だけでなく海外への展開も視野に入れていると語る。
「今は国内流通だけですが、日本の古いモノを海外に展開していけたら面白いなと思っています。南米やアフリカなど、日本に興味を持つ人たちがたくさんいるので、待っている人たちのもとへ商品を届けたいと考えています。」
今後はオンラインチャネルなどを通じて、日本の質の高いヴィンテージ品を世界に届ける計画だ。日本の「もったいない」精神が育んだヴィンテージカルチャーが、世界で新たな価値を生み出す。BANULは、その先陣を切る存在として、今後も業界に新しい風を吹き込み続けるだろう。
また、若山社長は自社事業の成長だけでなく、リサイクル業界全体の発展にも目を向けている。「同業他社の人たちは敵ではなく、味方として一緒にこの業界を盛り上げていきたい」と、業界全体の地位向上を目指している。ゴミとして扱われがちな不用品に価値を見出し、それを流通させることで、リサイクル業界の社会的意義を高めていきたいと意欲を見せる。
環境意識が高まる現代において、リサイクルやリメイク商品への需要は今後さらに高まるだろう。処分するしかなかった不用品に新たな価値を見出すことで、ゴミを減らし、環境保護に貢献するという理想的な好循環を生み出している。
若山社長が掲げる「新しい命を吹き込む」というコンセプトは、まさに時代のニーズに応えるものである。BANULは、今後も特別な存在として多くの人々に親しまれ、さらなる進化を続けていくだろう。


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