お客様のもとへ出向く、こだわり料理「Sitta-ca(シッターカ)」を訪ねてみた。





フレンチやイタリアンの技術を活かした本格パスタや、素材の味を存分に引き出したポタージュスープが評判のお店だ。今回は代表の財間 清高(ざいま きよたか)さんに、名前の由来や創業のきっかけ、そして今後の展望について伺った。
- レストランでの経験をキッチンカーで活かす
- コロナ禍を機に「待つ」から「会いに行く」へ
- 素材本来の味を引き出す技術
- 医療・介護の現場へもおいしさを届ける
①レストランでの経験をキッチンカーで活かす
愛知県を拠点とするイタリアン料理の移動販売「Sitta-ca(シッターカ)」。キッチンカーでの出店とコンテナキッチンの両方で事業を展開している。キッチンカーとコンテナキッチンの外観は爽快感あふれるブルーが目を引くデザイン。愛知県と岐阜県で営業許可を取得し、キッチンカーでは地元のさまざまなイベントに出店している。イベントに合わせたメニューを提供することもあるそうだ。
「Sitta-ca」というユニークな店名。イタリア語の「Sitta(五十雀)」と「ca(家・邸の意味)」を組み合わせた、財間さんの造語だ。
「造語のメリットは他の店と名前が被りにくいことです。あと妻からは『しったか、きよたか』とよく言われていて(笑)。その言葉遊びも由来の一つですね。」
そう語る財間さんは、料理の専門学校を卒業後、21歳から一貫して料理の道を歩んできた。今年47歳になる財間さんは、約30年もの間、飲食業一筋だ。料理人を目指したきっかけは、中学生の頃に読んだ小説「ぼくらの七日間戦争」だったという。
「もともと子どもの頃から、物を作ることが好きだったんです。『ぼくらの七日間戦争』に出てくる料理好きなキャラクター『日比野朗』に憧れて、自分も家で料理を作るようになりました。高校生になるとイタリアンのお店でアルバイトを始め、そこから本格的に料理の道に進みたいと思うようになったんです。」
飲食業界での下積み時代は決して楽ではなかった。財間さんは当時をこう振り返る。
「20代前半は厨房でできることも少なく、『今日は一日中洗い物しかしなかった』という日もありました。先輩も怖かったですし、やめようかと思うことも多かったんです。でも途中で気づいたんです。環境のせいにしていても何も変わらない。自分の意識を変えないと環境は変わらないって。」
その気づきから仕事への姿勢が変わり、先輩たちからの接し方も変化。徐々に仕事が楽しくなっていったという。

②コロナ禍を機に「待つ」から「会いに行く」へ
財間さんがキッチンカーでの営業を始めたのは、コロナ禍がきっかけだった。
「コロナ禍前に長く勤めていたレストランが閉店してしまい、40代手前で再就職したんです。就職先は約100名を収容できる大きなレストランでした。その会社は福利厚生もしっかりしていて、有給休暇もちゃんと取れる。家族との時間も作れて、このまま安定して働いていけると思っていたんです。」
しかし、コロナの感染拡大による緊急事態宣言で状況は一変する。
「最初の緊急事態宣言で、1か月間まるまる出勤できなくなりました。その月の売り上げはゼロです。給料は保証されていましたが、経営は大打撃を受けました。コロナ前は調子が良かった自分の勤務先の店舗も、閉店に追い込まれたんです。」
レストランとして調子の良かったお店が、あっさりと閉店に追い込まれる状況を見て、路面店の極端な弱さを目の当たりにしたという。
「飲食業の未来を考える様になったのもその時からです。そこで僕は、お客様を待つ商売よりもお客様に会いに行くを選択しました。」
コロナ禍で注目を集めていたマルシェに着目した財間さん。レストランには行けなくても、外のイベントなら人が集まる。そこで移動販売という選択肢を取ったのだ。
「緊急事態宣言が解除されると一気にお客様が戻るけど、また宣言が出るとガクンと下がる。その振り幅は大きく、不安定な状況に不安を感じました。その頃から、会社勤めより個人で事業をしてフリーランスになった方がいいんじゃないかと考えるようになりました。」
コロナ禍がなかったら、移動販売という選択肢はなかったかもしれない、そう財間さんは語る。

③素材本来の味を引き出す技術
Sitta-caの看板メニューは、パスタとポタージュスープ。キッチンカーでパスタを提供するのは珍しいという。
「キッチンカーでパスタのお店は数える程しかありません。パスタを茹でるために大量のお湯とまとまった茹で時間が必要となることが理由の一つだと思います。調理工程が多い上に、のびて冷めてしまったパスタはとても食べれるものではありません。つまり、一定のクオリティとスムーズな運営を維持するのが難しいのです。」
しかし、財間さんは自らの強みを活かすため、あえて難しい方を選択した。
「レストランだったら、パスタが出来上がるまで待ってもらってる間も他の料理が出てきたりして楽しめます。しかし移動販売ではそれができません。待たせることは、お客様の不満に繋がってしまう可能性もあります。それでも私はパスタを出したかったんです。もともとイタリアンをベースにやってきた自分の経験を活かすためにも『パスタを売りたい』という気持ちは強く持っていました。」
財間さんは設備にもこだわりを持っている。
「冷蔵庫、冷凍庫がしっかりしてないと、食品の保存に影響します。機能性を考えて、限られた空間の中にもしっかり詰め込んでいます。おしゃれさも大事ですが、それだけを追求して味が落ちたら本末転倒ですからね。」
もう一つの看板メニューは、ポタージュスープだ。
「おすすめは旬の野菜を使ったポタージュスープです。生産者さんや販売者さん達と直接お取引きする事でお客様に安心と安全をお届けしています。野菜のおいしさを伝える為に、余分なものはなるべく入れない様にしています。一般的にスープにはブイヨンや出汁を入れて仕上げますがSitta-caのポタージュスープはメインの食材以外に少量の油脂、玉ねぎ程度しか入れてないんですよ。」
背景には、野菜のおいしさを伝えたいという想いがある。
「顆粒のチキンブイヨンを入れれば確かにおいしくなります。しかし元の野菜の味が薄まってしまうんです。最初から無添加・オーガニックを目指していたわけではなかったのですが、野菜のおいしさを伝えようとすると、自然と添加物を使わない方向になりました。」
「一口目が最も大事」と語る財間さん。最初の一口で「おいしい」と感じてもらえなければ、次につながらないという信念を持って、移動販売を続けている。


④医療・介護の現場へもおいしさを届ける
財間さんの作るポタージュスープには、ご本人も気づかない意外な需要があった。介護や医療関係のお客様からの注文も入る事が増えてきたのだという。
「レストランに勤めていた頃は、医療や介護系の人たちとの接点はありませんでした。でも、自分でポタージュスープを売り始めてから、医療関係や介護関係のイベントにお声がけいただくことが増えたんです。『介護食でも、ペースト状の食べ物は広く出回っているけど、正直おいしくないんです』という声が多く届きました。制限がある中でも、おいしいものを食べたいという気持ちは誰もが持っていると思っています。」
野菜本来の味を活かした、栄養たっぷりでとろみのあるポタージュスープは、噛むことや飲み込むことに制限がある方たちからの需要があったのだ。
「今後、小さい子からお年寄りまで、食べやすくておいしいものを広げていくなら、スープなんじゃないかと思っています。食は三大欲求の一つですからね。体に良いだけでなく、おいしいものを食べたいという欲求に応えたいです。今後はおいしいスープを全国のお客様に届けられる様にするために、ネット販売やサブスクリクションを活用していきたいという構想もあります。ポタージュスープ事業を拡大していきたいですね。」
財間さんのスープが全国に届く、そんな日が来るかもしれない。
今は、マルシェの同業者たちとの交流も大きな支えになっているという。
「マルシェの皆さんは本当に優しい人が多いです。個人同士の営業で、ライバルでもあるのに、質問にもちゃんと答えてくれるし、情報も教えてくれる。ライバル意識より、『マルシェを良いものにしよう』という一体感があるんです。」
中には、キッチンカーの中まで見せてくれる人もいるという。財間さんはそうした温かさに感謝し、自身も同じように人に接していきたいと語る。
30年近くレストランの厨房で腕を磨き、コロナ禍という試練を乗り越えて新たな道を歩み始めた財間さん。キッチンカーという小さな空間から、大きな可能性を切り拓いている。
季節の野菜のおいしさを存分に味わえるスープや、本格的なパスタが気になる方は、愛知県内のマルシェで「Sitta-ca」を探してみてはいかがだろうか。出店情報は公式Instagramに掲載されているので、ぜひチェックしてみてほしい。

詳しい情報はこちら