笑顔を届けるベーカリー「パン工房ベルク」を訪ねてみた。





2023年12月にオープンしたこのベーカリーは、Googleで口コミ評価40件以上かつ4.4と高評価を獲得しており、地元住民からの支持を集めている。今回はオーナーの山田 広樹(やまだ ひろき)さんに、職人になるまでの道のりや独立した背景、そしてパンへの熱い想いについて伺った。
- 遠回りしながらも夢をかなえてパン職人へ
- メンタルの疲弊、そして独立を決意
- 師匠との出会い、そして「ベルク」を開店
- シンプルなパンに秘められた戦略
- どん底を経験したからこそ、笑顔を大切に
①遠回りしながらも夢をかなえてパン職人へ
稲沢市役所からJR稲沢駅までを東西で結ぶ南大通り沿いという好立地にあるのが「パン工房ベルク」。爽やかなブルーの看板が目印だ。
「小さい頃から、パン屋さんかケーキ屋さんになるのが夢だったんです。」
そう語るのは、ベルクのオーナーである山田さん。物心ついたときから、ものづくりと甘いものに目がなく、その両方をかなえられるパンやケーキの職人にあこがれていた。しかし工業高校に通っていたこともあり、卒業後はそのまま工場に就職した。
一度は別の道に進んだ山田さん。しかしパン職人への夢が消えることはなかった。1年半後に勤務先を退職。翌春、一念発起してパンの専門学校へ進学した。
「働いて貯めた貯蓄を学費に充てました。」
親御さんも山田さんの決意を尊重し、「自分で決めたことなら好きにやってみなさい」と応援してくれたそうだ。
「専門学校では基礎からしっかりと学ぶことができました。その後はいくつかのベーカリーで経験を積ませていただき、店長職も経験しました。」
夢だったベーカリーで働きながら、パン作りの技術だけでなく、店舗運営やマネジメントについても学んでいった。
②メンタルの疲弊、そして独立を決意
順調にキャリアを重ねていった山田さん。しかしあるとき、予期せぬ壁にぶつかってしまう。
「企業のベーカリー部門に勤めていたのですが、異動があり、その異動先が自分に合わなかったんです。そこでメンタル的に参ってしまいました。」
そして勤めていた会社を退職。しばらくは何も手につかず、苦しい時期が続いた。
そんなある日、山田さんは気分転換を兼ねて山登りをする。
「山の上からふもとの街を見下ろした時、自分が抱えていた悩みがいかにちっぽけなものだったかに気づかされたんです。それと同時に、『ここでくよくよしているくらいなら、自分の理想のパン屋を自分で作ろう』と決意しました。」
この経験が、山田さんの背中を大きく押した。そして独立に向け、準備を始めたのだ。
③師匠との出会い、そして「ベルク」を開店
ベーカリーの勤務経験は豊富だったものの、一人でいきなりベーカリーを始めるのに不安を覚えた山田さん。独立する前に修行しようと考え「ミモザ」というベーカリーの扉を叩いた。
「実は、私が以前勤めていた会社のベーカリー部門の立ち上げに関わった方が、『ミモザ』にいたんです。思い切って連絡を取り、『独立したいので、修行させていただけませんか』とお願いしたところ、快く受け入れてくれたんです。師匠はよく、僕に大切なのは人柄と縁だと言っていました。」
パンづくりの師匠に出会ったことで、山田さんは、経営に関するアドバイスなど、手厚い支援を受けながら開業準備を進めることができた。
山田さんは独立にあたり、店名に「ベルク」と名づけた。ベルクはドイツ語で「山」を意味する言葉。山田さんの苗字から取ったのもあるが、山に登ったときに感じた気持ち、初心を忘れずにいたいという想いも重ねられている。

④シンプルなパンに秘められた戦略
ベルクのパンは、「一風変わった派手なパン」ではなく、毎日食べれて楽しめるシンプルなパンが中心だ。しかし、そのひとつひとつに山田さんのこだわりと丁寧な仕事が詰まっている。
塩パン、クリームパン、クロワッサン、カレーパン、メロンパン、くるみパン……飽きのこない定番のパンが並ぶ。塩パンは塩とバターの配合が絶妙、メロンパンもパリパリした皮が楽しめる。
さまざまな種類のパンがあるベルクだが、開業当初はコッペパンの有名店とタッグを組んで集客を図っていた。定番のパンに加え卵コッペ、コロッケコッペ、ホットドックコッペ…など、さまざまな種類のコッペパンを販売する。
「最初は『コッペパンしかないのかな?』と思って入ってくるお客様が多いんですけど、入ってみると色々な種類のパンがあるので、「あれ?」って驚かれる事もあります。コッペパン専門店と聞いて興味を持って来てくださったお客様が、他のパンも気に入ってくださるという流れを作りたいと考えたんです。」
この戦略が功を奏し「コッペパン目当てで行ったけど、ベルクのパンの方が好みだった」という口コミも見られるなど出だしは好調。
そして現在、山田さんが最も力を入れている商品が「食パン」だ。なぜ、数あるパンの中から食パンを選んだのだろうか。
「以前勤めていた会社でも食パンを製造していたこともあり、食パンには強いこだわりがあるんです。僕自身、色々な高級食パンを食べましたが、中には「これが何でこんなに高い値段で売れるんだろう?」と疑問に感じるものもあったんです。」
そう聞いて、2010年代後半にあった、高級食パンブームを思い出す人も多いのではないだろうか。当時は高級食パン専門店が乱立し、一斤1000円を超える食パンが多数販売された。
しかし高級食パンは糖分と脂肪分が多く含まれているモノが多い。砂糖や練乳、はちみつなどの甘味料が多く使用されるためだ。油脂量も通常の食パンよりも多い。ふわふわした食感を生み出している半面、健康面でのリスクをはらんでいるのだ。
「いろいろな食パンを食べてみて、お手頃な値段でおいしい食パンを提供すれば、きっと売れるんじゃないかと考えました。」
実際に筆者も食パンを頂く事ができた。
山田さんのつくる食パンは、きめ細かくしっとりとした食感と、小麦本来の豊かな風味が特徴。大袈裟ではなく、ジャムなどを「何もつけずとも」しっかりとした味わいがある。毎日食べたいというリピーターも多いそうだが、納得の味だった。


⑤どん底を経験したからこそ、笑顔を大切に
ベルクの魅力は、パンの美味しさだけではない。Googleなどのレビューには、「接客が丁寧」「お店の雰囲気が良い」といった声が寄せられている。
山田さんが、接客で大切にしていることは何だろうか?
「飾らず、自然体でいることです。特別なことはしていません。お客様一人ひとりに感謝の気持ちを持って接するように心がけています。」
客層の中心は主婦層だが、最近では一人で訪れる男性客や学生も増えてきている。ベルクは近隣の大学とも連携し、学生とのコラボレーション企画なども積極的に行っている。地域とのつながりも、大切にしているのだ。
山田さんに、ベルクでの今後の展望を伺ってみた。
「まずはこの場所で、地域の方々に愛されるパン屋さんになることが一番の目標です。お客様の笑顔を見ることが、何よりのやりがいです。地元の人が気軽に立ち寄れて、毎日食べたいと思ってもらえるようなパン屋さんになりたいです。」
取材中も、お客様がひっきりなしに訪れて、山田さんとのやりとりを楽しんでいた。この光景こそ、ベルクが地域にしっかりと根を下ろしている証と言えるだろう。山田さんの人柄もまた、リピーターを生み出している。
最後に、山田さんに座右の銘を尋ねると、少し照れながら「笑顔、ですかね」という答えが返ってきた。
「辛い時でも、笑っていればなんとかなるって信じています。」
大変だった時期を乗り越え、夢を叶えた山田さん。その言葉には、力強さとともに深い重みと温かさが感じられる。
パン工房ベルクは、今日も地域の人々の日常に、おいしいパンと笑顔を届けている。稲沢市を訪れた際は、ぜひ訪れてみてほしい。

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