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一宮市

アレルギーがあってもおいしいパン「米粉と大豆粉ベーカリーカフェぽけっと」を訪ねてみた。

アレルギーがあってもおいしいパン「米粉と大豆粉ベーカリーカフェぽけっと」を訪ねてみた。
JESSE <small>ジェシー</small>
JESSE ジェシー
最近、米粉にハマっててさ、趣味で米粉でパン作り始めたんだ!
MEI <small>メイ</small>
MEI メイ
すごいじゃない!米粉パンってヘルシーだし、モチモチしてて美味しいわよね!
JESSE <small>ジェシー</small>
JESSE ジェシー
でも、パン作りってなかなか難しくて試行錯誤してたら気づけば毎日一日中パン焼いてるからパンだらけになっちゃって・・・
MEI <small>メイ</small>
MEI メイ
・・・趣味の枠を超えてるわよ・・・
この記事は約8分で読めます。
一宮市にある「米粉と大豆粉ベーカリーカフェぽけっと」をご存じだろうか。
ご自身も小麦アレルギーを抱えている代表の山田 千紘(やまだ ちひろ)さんが手がける、無添加・グルテンフリーのパンが楽しめるお店だ。パン屋を目指すきっかけとなったお母様への想いや、小麦を使わないパンへのこだわり、そして世界を見据えた展望などを伺った。
今回のツムギポイント
  • 「母の笑顔が見たい」とパンづくりの道へ
  • 小麦アレルギーという試練を乗り越えて
  • 「小麦は絶対に入れない」徹底したこだわり
  • AIの時代だからこそ忘れてはいけないもの
  • 「ごめん」ではなく「ありがとう」を大切に

「母の笑顔が見たい」とパンづくりの道へ

 

「小麦アレルギーのパン職人」そう聞いて、驚く人も多いだろう。

 

「米粉と大豆粉ベーカリーカフェぽけっと」の代表、山田さんがまさにそうだ。山田さんはパン職人として働く中、突如小麦アレルギーを発症する。しかしその経験が、小麦粉を一切使わない完全グルテンフリーのパン屋という新たな挑戦を生み出した。山田さんは今、アレルギーに悩む人々や健康を意識する人々に「安心」という価値を届けることを生業としている。

 

店名の由来は2つある。1つは、「ここに来たら、心も体も、ぽけっとできる」という意味を込めている。

 

「ぽけっとは「ちょっと気が抜ける」という意味です。関東の知人には伝わらなかったので、もしかしたら方言なのかもしれません。お客様が落ち着ける、第2のお家になればと思って付けました。もう一つはポケットから小銭を出して、気軽にパンを買えるようにという意味です。」

 

山田さんがパン職人を志したきっかけは、小学生の頃に遡る。夏休みの自由研究のために、お母様と一緒にパン教室に行ったことだ。

 

生地をこねて、膨らませてといった過程が楽しかったからだろうか?

 

「ちょっと違います。うちの実家は、自営なんですよ。会社を親戚一同でやってて。父も母もそこで働いてたので、本当に忙しそうでした。両親と一緒に過ごした記憶があまり私の中にはないんです。」

 

そう、山田さんは当時を振り返る。

 

夏休みの自由研究のために、親子で参加したパン教室にいる間は、山田さんがお母様を独占できる貴重な時間だったのだ。

 

「パン教室に行った時に、母がずっと笑ってたんです。すごく楽しそうだったんです。普段は仕事で大変そうな顔をしていることも多かったので、母の楽しそうな笑顔の印象が、とても鮮明に残ったんです。」

 

幼い山田さんの目には、パンは単なる料理ではなく、母を笑顔にする「魔法」のように映ったのだ。

 

「母を笑わせられるパン屋さんってすごいな、パン屋さんって魔法みたいだなと思いました。」

 

当時好きだったアニメ「アンパンマン」の影響もあったという。山田さんにとっては、アンパンマンよりも、パンをつくるジャムおじさんの方がヒーローだったのだ。

 

そして山田さんは調理師の免許を取得できる高校を選び進学。

 

「パン作り以外の料理を学んでから、パン職人に本当になりたいのかどうかを決めようと思いました。」

 

さらに卒業後はパンづくりの専門学校へ進学し、パン職人への道を歩み始めたのだ。

 

②小麦アレルギーという試練を乗り越えて

 

専門学校卒業後はパン屋さんに就職し、パンづくりの修行をしていた山田さん。しかし約6年前、山田さんに試練が訪れる。重度の小麦アレルギーの発症だ。

 

「出勤前に道端で倒れて救急車で運ばれたんです。」

 

小麦の体内の蓄積に加え、不規則な仕事、ストレスなどもあったのかもしれない。パン職人が重度の小麦アレルギーになることは皮肉な運命だが、山田さんはパン屋の道を諦めることはなかった。そして、目を付けたのが米粉パンだ。

 

「昔は、米粉のパンは私の中ではパンじゃないとずっと思っていました。固いしパサパサするし、全然おいしくなかったんです。ですが身体が小麦を受け付けなくなってしまったので、米粉を使用するしかなかったんです。なので、自分でおいしい米粉パンを作ろうと考えたのが、今のお店の原点なんです。」

 

そして山田さんは、自ら米粉パンの研究を始めた。

 

「今でこそ米粉パンの教室も探せばありますけど、当時は全然ありませんでした。自分でYouTubeを見ながらアレンジするなど、独学で米粉パンをつくっていました。最初はお餅しかできませんでした。米粉でパンをつくろうとしているのに、お餅になっちゃうんです。あれこれと試行錯誤を続けてやっとパンが完成したんです。」

 

そう笑いながら、当時の試行錯誤を振り返る。

 

紆余曲折の末に、自分なりの米粉パンを完成させた山田さん。独立したいと考えたきっかけも、お母様の存在だった。

 

「母は元々、料理の仕事をしたかったそうです。しかし家族のために家業を手伝うことを選んだそうです。そんな母の想いも知っていたので、母の夢でもあった料理の道を選びました。」

 

山田さんのバックグラウンドもまた、独立の後押しとなった。

 

「家業は祖父が創業者なのですが、祖父から起業の話を聞いて育ったので、独立や起業の抵抗感はそんなにありませんでした。もちろん、うまくいくのかとか、生活が成り立つのかという不安がゼロだったわけではありません。しかし、不安よりも美味しい米粉パンでみんなを笑顔にしたいという気持ちが強かったんです。」

 

独立後は、主に企業向けの卸や、障がい者施設の就労支援事業所のパン屋開業コンサルティングなどを行っていた。しかし全国を転々としながらのコンサル業には、一つ大きな問題があった。

 

「コンサル業は全国を飛び回るので、腰を据えてパン作りに取り組む事が難しいんです。私はパンを作りたくて独立したのに思うようにパンを作れなくて、釈然としない日々を過ごしていました。」

 

やはり自分はパンをつくるのが好きだという想いが募っていた時に「そろそろ落ち着いたらどうだ」というお父様の言葉に背中を押されて、実店舗を持つことを決意。そして、「米粉と大豆粉ベーカリーカフェぽけっと」をオープンした。

 

③「小麦は絶対に入れない」徹底したこだわり

 

「米粉と大豆粉ベーカリーカフェぽけっと」の最大の特徴は、小麦粉を一切使用しないということだ。米粉パンと謳いつつ、実は小麦粉が入っているパンも多い中、同店は「小麦は絶対に入れない」という徹底したこだわりぶりだ。

 

調味料にも徹底的にこだわり、小麦成分を一切含まないものを選んでいる。

 

「実は、醤油とか味噌にも、小麦が入ってるんですよ。なので、調味料からも小麦を取り除きました。」

 

醤油や味噌など、家に常備されている調味料の原材料に小麦が含まれていることは、寡聞にして知らなかった。アレルギーを持つ本人や親御さんの苦労がしのばれる。自身も小麦アレルギーに悩まされた、山田さんだからこその着眼点だ。

 

パンに使用しているのは、岐阜県産の「こなゆきひめ」というブランドの米粉だ。

 

「岐阜県関市にある会社があり、28品目のアレルギーを除去した製品をつくっているところです。普通は米粉を使ったパスタはプチプチ切れやすいのですが、その会社がつくったパスタは切れません。そのパスタを買いたくて行ったのですが、そのときに教えてもらったのが、こなゆきひめだったんです。岐阜県の農業技術センターに、こなゆきひめを使ったレシピ開発をしている人がいて、その人も紹介してもらいました。」

 

このエピソードからは、山田さんが、ご縁を大切にしていることが伺える。

 

米粉を使用したパンと大豆粉を使用した商品を作っているからこそ、小麦アレルギーの人はもちろん、糖尿病など食事制限を受けている人も、安心して食べられると好評だ。

 

「自分も一時期、持病で糖質制限をしなければいけなかった時期がありました。そのときに、何を食べればいいか困ってしまったんですよね。大豆粉を使用した物は低糖質高タンパクなので、糖質制限が必要な人にも安心して食べていただけます。」

 

また、無添加なのも大きなポイントだ。

 

「当店では、具材から全部うちで選び、つくっています。そこも大きな強みですね。」

 

例えば卵サラダに使うマヨネーズも、市販のものではなく豆腐を使用したものだ。実は食育アドバイザーやフードアドバイザーの資格を持つ山田さん。知識を活かして、栄養面にも配慮した商品開発を行っている。

 

④AIの時代だからこそ忘れてはいけないもの

 

お店を訪れるお客様の多くは、自身や家族にアレルギーを持つ人たちだ。

 

「これって絶対大丈夫?食べられるかな?」

 

そんなお客様からの疑問に対し、山田さんは自信をもって「食べられますよ」と胸を張って答えている。そんな山田さんのパンを求め、Instagramなどを見て県外など遠方から訪れるお客様も多い。それだけ、100%小麦粉を使わないパン屋さんは貴重なのだ。

 

そんな山田さんが今、力を入れていることがある。それは技術の継承だ。

 

「ご縁があって、自分のパン屋の技術を、台湾に伝える活動をしています。台湾以外に、シンガポールやマレーシアからも話が来ています。」

 

その背景にあるのは、恩送り(おんおくり)の気持ちだ。恩送りとは、誰かから受けた恩を別の人に送り、感謝のバトンをつなげること。山田さんもパン作りの師匠にいただいた恩を誰かに送ろうと考えているのだ。

 

「私にパンづくりを教えてくれた師匠は、厳しい面もありましたが、叱咤激励しながら、育ててもらいました。その人のおかげで私は今、パンの仕事ができています。ですから、私もその恩を誰かに送りたいんです。」

 

山田さんは、今後パンづくりの職人がどんどん減ってしまうのではないかと懸念している。

 

「実家は、製造メーカーなんです。私は完全に職人気質の家で育っています。職人が減ってるとずっと前から言われている中で、ものづくりを貫いている会社なんです。日本の文化がなくなっていっていることを、肌で感じています。」

 

職人の減少を、ひしひしと肌で感じているのだ。

 

「今、AIが注目されていますよね。AIができることは、これからどんどん増えていくと思います。人間の仕事が無くなってしまうという事も言われています。でも、AIがつくったものと人の手がつくったものって、やはり違うと思うんです。なんでもAIでやればいいというものではありません。師匠が渡してくれたバトンを、ここで止めたくないと思っています。」

 

パンづくりの技術を次の世代に伝えたい、その思いが山田さんを海外へと突き動かしているのだ。

 

⑤「ごめん」ではなく「ありがとう」を大切に

 

最後に、山田さんが日々、大切にしていることを聞いてみた。すると、即座にこのような言葉が返ってきた。

 

「『ありがとう』を伝えることです。私は昔から「ごめんなさい」が多い人なんですよ。口癖なんです。誰かに何かをしてもらっても、ごめんって言っちゃうんです。でも、それだと誰もプラスになりません。だから、常に今は「ごめんなさい」と思ったら、すぐに切り替えて「ありがとう」って伝えるようにしています。」

 

共感するという人は多いのではないだろうか。さらに、もう一つあるという。

 

「自分一人で成し遂げたことは、何一つありません。父や母がいてくれるから、私は自分の仕事ができます。師匠がいてくれたから、パンの技術を習得できました。以前、勤めていたパン屋も、楽なことばかりではありませんでした。でも、そこでの経験があるからこそ、今の自分があります。そして、お客様があってこその、お店であり、自分なんです。けっして1人でここまで来たわけではありません。そのことを忘れないようにしたいと思っています。」

 

山田さんは、技術を伝える際に必ず言っていることがあるという。

 

AでもBでもCでも、どの道を選んでもいい。だけど「作業」になるな。ということを伝えています。何かを成し遂げるために私はAの道を選び、弟子がBCを選ぶこともあります。私はそれでもいいと思っています。「そういうやり方もあるんだな」と勉強になることも多いです。しかしどんな道を選んだとしても、単なる作業ではなく「心」を乗せてほしいと考えています。」

 

小麦アレルギーというハンディキャップを乗り越え、新たな挑戦への原動力に変えた山田さん。

 

その経験から生まれた「米粉と大豆粉ベーカリーカフェぽけっと」は、多くの人にとっての希望となっている。キャッシュレス化が進む世の中だが、たまにはポケットに小銭を入れて、ふらりと訪れてみてはいかがだろうか。

 

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