変幻自在の料理で地域を魅了する古民家カフェ「OBAKEのOKABE」を訪ねてみた。





フレンチをベースとした独創的な料理を提供するお店だ。顔が見える生産者から仕入れた食材を使い、まるでおばけのように予測不可能なおいしい料理を提供している。店主の乙川 鮎美(おとがわ あゆみ)さんに、お店を開いたきっかけや、今でも続けている間借り営業のこと、大切にしたいことなどを伺った。
- 実家は農家、身近に野菜がある環境
- お客様に合わせて千変万化するお店
- 野菜の魅力を余す所なく伝える
- 間借りでのお店も続ける理由
- 仕事と家庭を両立して飲食店を経営
①実家は農家、身近に野菜がある環境
静岡の農家で生まれ育った乙川さん。幼いころから、料理に親しんでいた。
「実家ではお米の後に、レタスをつくっていました。そのレタスを鶏にあげるために、ひたすら刻んでいたんですよ。そのため自然と台所に立つ事はありましたね。」
高校生の頃には毎日家族分のお弁当をつくり、さらに毎週お菓子をつくるほどの料理好き。専門学校も料理が学べるところを選んだ。
「最初はカフェを学びたかったので、カフェのクラスがある学校に行っていました。その学校は、1年目に中華も和食も全て経験して、2年目に専攻を選ぶ形でした。いろいろ勉強してみたら、フランス料理や西洋料理をやっておいた方が幅が広がる、もっと深い世界に行けると思ってフレンチを選んだんです。」
結婚・出産を期に一時、飲食の世界から離れた乙川さん。しかし料理への情熱は消えることがなかった。レンタルスペースを借りて間借りで営業を始めた。
しかし間借り営業には制約があり、作りたいものが十分に作れないという課題があった。
「間借りの場合だと、仕込んで持っていくことができません。一晩寝かせたものを作れなかったりとか、制限がどうしても多かったんです。作業のスピードは上がったんですけど、やりたいことが全部はできない。一か所、自分の基地があったらそこをベースに動いていけるだろうと考えました。」
そして、2024年9月に念願の実店舗「OBAKEのOKABE」をオープンしたのだ。

②お客様に合わせて千変万化するお店
「OBAKEのOKABE」というユニークな店名は、最初に間借りしていたレンタルスペースの名前「OBAKE」と、乙川さんの旧姓「岡部」を掛け合わせたものだ。
「最初にOBAKEというレンタルスペースを見つけて、間借りでの営業スタイルを始めました。私は旧姓が岡部なので、ちょうど語呂的にいいなと思ったんです。」
その後「OBAKE」がなくなり、別のレンタルスペースで間借りすることになった。名前を変えようか悩んだ乙川さんだが、そのまま続行することを決める。
「私は出店するイベントによって、提供する料理を変えています。お弁当を出してくださいって言われたらお弁当を出しますし、コーヒーって言われたらコーヒーを出します。ですから変幻自在という意味のOBAKEで、今は使っているんですよ。」
現在の実店舗のキッチンは、実はそんなに広くないという。オーブンやシンクは業務用だが、冷蔵庫など家庭用のものも多い。それでも調理器具を活用し、知恵と工夫でたくさんの料理をつくる。レンタルスペースでキッチンを借りて、さまざまな料理を提供してきた経験が、実店舗でも活きているのだ。外観は、どこか懐かしさを覚える古民家風。
「特に古民家にこだわって探したわけではありませんでした。ただ、はめ込みのガラス窓とか、可愛いし、今はもう作っていないものなので、いいなと思ったんです。」
地元のお祭りを通じて地域に触れ、ここでお店を開きたいと感じた。
「商店街のつながりで、隼人池公園の桜まつりに出店したんです。小さな公園なのですが、地域のみんなが集まり、地元の小学生の発表などもあってとても盛り上がりました。そしてこの地域が好きになったんです。」
自宅からも近いのも、決め手になったという。

③野菜の魅力を余す所なく伝える
OBAKEのOKABEの強みは、新鮮な野菜を使った料理の数々だ。野菜を美味しく食べることをテーマに、日替わりランチを中心としたメニューを提供している。
「野菜を美味しく食べるというテーマで、料理をつくっています。この野菜がずっと嫌いだったけど、すごくおいしく食べられたとか、こんな食べ方もあったのねとか、発見してもらえるとうれしいですね。」
さらに、子ども食堂も実施している。
「実家が農家ということもあって、私は野菜がすごく好きなんです。野菜が嫌いなお子さんは多いですが、調理を工夫したらおいしく食べられるということを伝えたいですし、うちで食べたらおいしいと思ってもらえたらうれしいですね。」
お店の人気は日替わりランチ。取材した日はスズキのソテーだった。その日に仕入れた食材と、乙川さんのインスピレーションで変幻自在に変わる。
メニューを見て驚くのが、肉や魚がメインの料理は全体の2割程度。残りは全て野菜がメインという構成だ。野菜は同じ味付けでは飽きてしまうため、酸味、塩味、辛味のバランスを考えた料理を提供している。
地元農家や友人の八百屋から仕入れる、顔が見える食材を積極的に使用。安心・安全にも配慮している。北海道出身のご主人のつながりで仕入れた厚岸(あっけし)の新鮮な魚介類も、メニューに彩りを添えている。顔の見える関係を大切にしているのだ。


④今も間借りでのお店を続ける理由
念願の実店舗をオープンさせた乙川さん。しかし、毎週木曜日と第三日曜日の間借り営業も続けている。通常はどちらかに絞る人が多いと思うが、なぜ間借り営業を続けているのだろうか?
「レンタルスペースでのお客様に、店舗ができたから辞めますと伝えるのは、冷たいかなと感じました。レンタルスペースの近所に住む人が多いので、そこのお客様に「店舗ができたからこっちに来てください」というのも、違うかなと思います。あとはOBAKEのOKABEと、木曜日の間借りのお店と、第3日曜の間借りのお店って、ちょっとスタイルが違うんです。使い分けの意味もあって続けています。」
実店舗はもちろん、それぞれの場所の常連客を大切にしているのだ。
現在は実店舗を1つ、間借りのお店の2つを抱えているが、実店舗の多店舗展開は考えていないという。
「私は野菜を見て、インスピレーションで作ることが多いんです。自分のイメージを人に伝えても、多分うまく伝わらないと思っています。もちろん、チームでイメージをつくるレストランならではの良さもあると思いますが、私は自分でできる範囲で続けていきたいと考えています。」
フレンチの技術をベースに、より家庭的な料理を日常に落とし込んだ形で提供するOBAKEのOKABE。そのスタイルを今後も維持していきたいと語る。
⑤仕事と家庭を両立して飲食店を経営
実店舗の経営、間借り営業、マルシェやイベントの出店と、多岐に渡る活動を続ける乙川さん。一児の母であり、家庭も大切にしている。大変ではないだろうか?
「仕事と自分の生活とバランスを取ることを一番大事にしています。どれも好きなことだから、全く苦ではないですね。日曜日は主人も出張が入ることが多く、子どももお店に来ています。うちの看板息子になりつつあります。」
仕事と家庭生活の調和を図りながら、夢の実現に向けて日々奮闘している。乙川さんのご主人も、実は経営者。お互いの決断を尊重し合える関係を築き、ともに家庭を支えているのだ。
バイタリティーあふれる乙川さんの、座右の銘を伺ってみた。
「切磋琢磨という言葉が好きです。私の周りには、夢に向かって頑張ってる人がたくさんいます。悩むこともたくさんありますが、仲間がたくさん周りにいるので、それが私の原動力になっています。」
最後に「乙川さんにとって料理は?」という質問をしてみたところ「自分自身」という答えをいただいた。それだけ乙川さんにとって、料理は身近で、当たり前なことなのだ。
OBAKEのOKABEは、これからも地域に愛されるお店として、変幻自在なメニューを届けていくだろう。もし「最近、野菜足りてないかも…」と気になっているなら、ぜひ一度味わってみてはいかがだろうか。

詳しい情報はこちら