お菓子で世界を旅する焼き菓子店「アトリエ・エール」を訪ねてみた。





世界各地の文化や歴史をテーマにしたお菓子をつくり、販売している。このオンラインショップを運営しているのが、「アトリエ・エール」の店主である丹羽 恵(にわ めぐみ)さんだ。今回は丹羽さんに、世界に興味をもった理由や、お菓子へのこだわりについて伺った。
- 中学での「悔しい経験」をバネに語学を習得
- フランスで見つけた自分に合う働き方
- オンライン販売とレストラン、二刀流のキャリア
- お菓子でつながる感謝と信頼のループ
①中学での「悔しい経験」をバネに語学を習得
オンラインショップの「Biscuiterie ère(ビスキュイトリー・エール)」、そして屋号の「Atelier ère(アトリエ・エール)」は、いずれもフランス語だ。
丹羽さんは大学でフランス語を学び、その後渡仏。現地でお菓子づくりの経験を積んで帰国したあと、オンラインショップを開いた。アトリエという名前には、これからさまざまなものをクリエイトしていきたいという、丹羽さんの想いが込められている。
そんな丹羽さんが海外に興味を持ったきっかけは、何だったのだろうか?
「中学2年のときに、初めて研修で海外に行く機会がありました。学校から有志を募り、夏休みに約10日間をオーストラリアで過ごすというものです。それを知った母が、私に「行ってみない?」と声をかけてくれました。当時はそこまで海外に興味はなかったのですが、いい経験になると思い申し込みました。」
安価に海外に行けるということもあり、希望者が多く、選抜試験があったという。その試験を見事に勝ち抜いた丹羽さんは、10日間のオーストラリア研修に参加した。
「その研修の後半に、ホームステイがありました。そこで、自分の英語のできなさに泣きたくなったんです。ステイファミリーの方はすごく親切で、文章でも伝えたいことを書いてくれたのですが、その文法も全然わかりませんでした。なぜ文章の途中にWhatが出てくるの?という感じでした。コミュニケーションができない辛さを、そこで初めて味わいました。」
確かに中学2年生なら、Whatといえば「What is this?」のような疑問文のイメージしかないかもしれない。この経験で、英語自体が嫌いになる人もいるだろう。しかし丹羽さんは、その経験をバネにして、英語の勉強に打ち込んだ。そして高校でもニュージーランドの研修に参加。そこでは英語で会話ができて、友達もできたという。まさに努力の人なのだ。
そして丹羽さんは、もっと言語を学びたい、歴史を知りたいと、外国語大学に進学した。しかし、なぜ英語ではなくフランス語を選んだのだろうか?
「小さい頃からお菓子をつくるのが好きで、パティシエになりたいという夢を持っていました。しかし、大変な世界だとわかっていましたし、勉強も楽しかったので、他の世界を見てからでも遅くないと、頑張ってきた語学を生かせる進路に進んだんです。ただ、やはりお菓子にかかわることをしたいと考え、フランス語を選びました。」

②フランスで見つけた自分に合う働き方
大学を卒業した丹羽さんは、日本のベーカリー企業に就職した。そして3年後、転機が訪れる。ワーキングホリデーのビザを取り、フランスで働けるように斡旋してくれるエージェントを見つけたのだ。
そして丹羽さんは、ワーキングホリデーのビザを取って1年間、その後は別のビザで2年間、計3年をフランスで過ごすことになった。最初はブルゴーニュ地方のレストランで、デザートをつくる仕事に従事。レストランでの勤務は初めてという丹羽さん。最初のうちは苦労したという。どのように乗り切ったのだろうか。
「職場に、私と同じような経緯で働いていた日本人の女の子がいたんです。私より若い方だったのですが、彼女は日本でパティシエの経験があったため、私に一から仕事を教えてくれました。逆に彼女はフランス語があまりわからなかったため、私がコミュニケーションをサポートし、助け合っていました。」
しかし3か月後、それまで前菜を担当していた人がいなくなり、丹羽さんが前菜を担当することになった。
「前菜の仕事も貴重な経験ばかりで楽しかったのですが、ワーキングホリデーは1年しかなく、焦りもありました。「私はこれをやりにフランスへ来たわけではない」という想いが強くなり、パティシエの仕事に携われないなら、別の店に移ろうと決めたのです。」
そしてパリに移った丹羽さんは、現地のレストランでお菓子作りに関する多くの経験を積み、日本に戻ってきた。
「日本では、パティシエといえばケーキ屋さんで働くイメージがあるのではないでしょうか。私もそのイメージでフランスに行ったのですが、フランスではレストランの数が多く、そこでデザートを作るのも、パティシエの仕事として定着しています。私も実際に働いてみて、出来立てのデザートをすぐにお客様に食べていただけるレストランの仕事に、魅力を感じました。日本とフランス両国でケーキ屋での勤務も経験しましたが、私にはレストランの仕事が向いていると気づいたのです。」
③オンライン販売とレストラン、二刀流のキャリア
「ビスキュイトリー・エール」は、ただ手作りのお菓子を通販するオンラインショップではない。他にはあまりないさまざまな特徴がある。
1つめは、お菓子について、それぞれのテーマやストーリー、背景を大切にしており、それを丁寧にお客様に伝えているのだ。Webサイトを眺めていると、世界を、そして時間さえも超えた旅をしているような感覚になる。ストーリーもまた、ビスキュイトリー・エールが販売する商品の一部なのだ。
「私は世界史が好きで、大学の時もフランス菓子の歴史的背景を研究テーマにしていました。もちろん、お菓子の見た目や味が好きという気持ちも大切ですが、それにプラスして成り立ちを知ることで、よりお菓子を楽しめると考えています。」
2つめは「選べるギフト」だ。種類ごとに包装され、1種類から選択できる。焼き菓子といえば詰め合わせの缶入りのものをイメージする人も多いのではないだろうか。なぜこのような形になったのだろうか?
「自分でもさまざまなクッキー缶を取り寄せて食べてみたのですが、香りが混ざってしまうのが気になりました。それにせっかくお金を出して買っていただくのであれば、好きなものを選んでもらいたいと思ったんです。」
そして「ビスキュイトリー・エール」の最大の特徴は、「夏場は営業しない」ということだ。なぜだろうか?
「焼き菓子にとって、高温多湿はあまり好ましくありません。その時期を避けて、10月から4月の間だけ販売しています。特に最近の夏はすごく暑いですからね。エアコンをかけて、気をつかって作っても、ベストの状態で食べていただけないと考え、夏の販売を中止しました。」
ベストな状態でおいしく食べられる時期だけを選んで販売する、とてもお客様に寄り添った対応だ。しかし、夏の間はどのようなことをしているのだろうか?
「その期間は経験を生かして、レストランの仕事をしています。やはり私は、レストランの仕事も好きなんですよね。でも自分の人生の集大成として、全国配送できる焼き菓子ブランドの立ち上げも諦めがたく、二刀流で行くことにしたのです。独立後初めての夏は、以前の勤務先レストランでデザートの開発も含め、パティシエの仕事全般を任せていただきました。」
フランス語が話せて、現地での就業経験もある丹羽さん。確かに期間限定でもいいから来てほしいと考えるレストランは多いだろう。
さらに、企業とのコラボレーションも積極的に行っている。
「現在は西尾市の抹茶屋さんとお付き合いがあり、製茶場併設のカフェに抹茶のケーキを卸しています。実は2年前にもお話をいただいていたのですが、当時はお受けすることができず、私の独立を機にようやく実現したのです。他の企業様とも、生菓子や焼き菓子を開発していけたらと考えています。」

④お菓子でつながる感謝と信頼のループ
「ビスキュイトリー・エール」は、どのような方が利用しているのだろうか?
「最初は海外に興味のある大学時代の知り合いが多かったのですが、主にInstagramで情報発信しているので、Instagramから見つけてくださるお客様も増えています。これは全く予想していなかったのですが、プライベートサロンのオーナー様から特にご好評をいただいています。サロンオーナー様方は、施術後に提供するお茶菓子にいつも悩まれているそうで、意外な分野からの需要を知ることができました。」
プライベートサロンという特別な空間で提供するお菓子も特別な物を出したいと考えるオーナー達に信頼され選ばれる焼き菓子というわけだ。
「プレゼントとしてお菓子を贈られた方が、今度はご自身の分を注文したり、別の方に贈っていただいたりすることもあります。実際にエールのお菓子を体験して、気に入ってくださったんだなとわかるのは、オンラインショップならでは。本当にうれしいですね。」
お菓子を通じて、どんどん感謝と信頼のループが生まれ、つながっている。
今後、事業を広げていきたいと考えているのだろうか。
「規模を大きくしたいというよりは、自分の目の届く範囲で、できるだけ長く続けたいと思っています。特にオンラインショップが休みの間には、新しいことにもチャレンジできますし、いろいろな方面からお誘いをいただけるような仕事をしていきたいです。」
最後に、日ごろから大切にしていることを伺ってみた。
「自分がやりたいことをやれているという、幸せをかみしめることです。今もそうですし、過去を振り返っても、母が海外研修を勧めてくれなければ、また希望の大学に行かせてもらえなければ、今の自分はありませんでした。今までの経験全てを注ぎ込んでお菓子を作れること、さらにそれをお客様に喜んでいただけることは、私にとってこの上ない幸せです。」
丹羽さんのパティシエとしての確かな技術と、海外文化への深い造詣の結晶である、ビスキュイトリー・エール。丹羽さんのこだわりが詰まった焼き菓子は、お菓子の奥深さと魅力を伝えてくれる。皆さんも、大切な人への贈り物として、ビスキュイトリー・エールのお菓子を選んでみてはいかがだろうか。


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