反骨精神で進化を続けるイタリアンバル「BASE ITALIA BOCCO」を訪ねてみた。





城下町から少し離れた場所にある、お洒落なイタリアンバルだ。さらにキッチンカーの「DECCO」、プリン専門店の「GATTO」と、次々にお店をヒットさせている。独自の経営哲学や大切にしていることについて代表の山田 真悟(やまだ しんご)さんに伺った。
- 料理人を志したきっかけは学生時代の出会い
- 「認知症の方が自分の料理を覚えててくれた」
- コロナ禍を逆手に取った企画を成功させる
- 「変わらないのは嫌い」進化し続けるBOCCOの味
- フルマラソン2時間43分のベストをもつ
- 1日1日、今日もやりきったと思える人生にしたい
①料理人を志したきっかけは学生時代の出会い
BOCCOは、犬山駅から徒歩で約10分の場所にある。「凹」のロゴがとてもユニークだ。もともとコの字型のテーブルを置く予定だったのが店名の由来だという。聞きなれない外国語の店名が多い中で、とても親しみやすい名前だ。
一歩足を踏み入れると、代表である山田さんのセンスが光る、アートギャラリーのような空間が広がる。リーズナブルな価格で、本格的なイタリアンを食べられると評判だ。
料理には和・洋・中とさまざまなジャンルがある。山田さんがあえてイタリアンを選んだのはなぜだろうか?
「実は僕、『ジョジョの奇妙な冒険』という漫画がめちゃくちゃ好きなんです。小学生の頃に初めて読んだ巻で、登場人物にトニオ・トラサルディーというイタリア料理人がいて、自分で料理をやるなら、絶対イタリア料理だなって思っていました。」
トニオ・トラサルディーはイタリアンレストラン「トラサルディー」を経営しており、料理を通じて体調を改善するスタンド(能力)を持っているそうだ。きっと山田さんもまた、彼のように料理でみんなを癒したいと考えているのだろう。
現在41歳の山田さんは、飲食店を始める前は雑貨屋や本屋の店員、介護職など幅広い経歴を持っている。そんな山田さんが最初に飲食業に興味を持ったのは、20歳のときだった。
「実家のそばに居酒屋があって、そこでアルバイトをしていました。そこに1歳年下の男の子がいたんです。彼の実家は関東なのですが、中学の頃からいろんなところに旅をしながら、いろいろな仕事をしながら愛知にたどり着いたんです。そしてその後、居酒屋の正社員になり、わずか19歳でオーナーの右腕として絶大な信頼を得ていました。彼は知識も経験も豊富で、とても尊敬していました。後に、オーナーと対等にお店を経営していた友人に、将来一緒にお店をやらないかと持ちかけられましたが、当時まだ学生で現実味がなかったこともありお断りしました。」
彼はその後関東に戻り、飲食とは別の事業を起こした。内装関係の会社を経営しているという。
一方、誘いを断った山田さんだが、この強烈なインパクトを持つ彼との出会いは、その後の山田さんの人生に大きな影響を与える。卒業後は本屋などいくつかのお店で働いていたが、いつか飲食のお店を持ちたいという想いが心のどこかにあった。

②「認知症の方が自分の料理を覚えていてくれた」
山田さんの飲食への想いが決定的となったのが、介護の仕事をしていたときだ。自身のおじい様が認知症になったのをきっかけに、介護のことを知りたいと考えたという。
そしてあるとき、施設で暮らす認知症の高齢者に対し、自分で作った食事を提供する機会があった。
「重度の認知症のおばあさんが、僕が作った料理のことを覚えていてくれたんです。毎日同じ時間に、『お兄さんが作った料理、おいしかったわ』って声をかけてくれて。記憶するのが難しいはずの人が、自分が作った料理のことは覚えてくれている。料理の力ってすごいなと感じました。」
筆者の祖母も、重度の認知症だった。彼女は僕の母親、つまり自分の娘のことすらわからなくなってしまっていた。山田さんも、仕事を通じてそのような高齢者にたくさん接してきたはずだ。それだけに、この体験は衝撃が大きかったに違いない。
介護の仕事を辞めるときに、タイミングよく知人にイタリア料理のお店を紹介してもらった山田さん。そこで3年間、イタリア料理の修行を積んだ。
そんな山田さんは、フォークリフトや大型トラックの免許も持っている。お金を貯めるために、あえてきつい仕事をしていた。またこれらの資格があれば、万一お店がうまくいかなかったとしても、食べていけると考えたからだという。
BOCCOもDECCOもGATTOも順調で、心配は杞憂に終わったわけだが、かなり慎重に準備を進めていたことがうかがえる。
「大型トラックの免許を取った理由はもう一つあります。学生時代に一緒に居酒屋で働いていた友達と、大型トラックを改装した移動式のバーをやりたいよねという話をしていました。当時のその話を実現させたのがキッチンカーのDECCOなんです。」
居酒屋での鮮烈な出会い、影響を受けた漫画、そして認知症のおばあさんが自分の料理を覚えてくれたこと……山田さんを形作ったさまざまな経験が、この3つのお店にギュッと凝縮されているのだ。
③コロナ禍を逆手に取った企画を成功させる
BOCCOがオープンしたのは約5年前の2019年7月。オープンからわずか半年でコロナ禍に見舞われたわけだが、心が折れたりはしなかったのだろうか。
そう尋ねると、山田さんは「面白かった」と言って笑った。
「ラッキーだったのは、オープンからコロナ禍まで半年も通常稼働できたことです。常連さんがついてくれて、テイクアウトで買ってくれて、さらに「あのお店のテイクアウト、おいしいよ」と口コミで広めてくれました。皆さん、今でもお店に来てくれます。僕は反骨精神の塊みたいな人間なので、あきらめるという選択肢はなかったですね。」
そんな山田さんの反骨精神がよくわかるエピソードがある。
緊急事態宣言が発表されたとき、飲食店の営業は朝5時から夜8時までと大幅に制限された。山田さんはそれを逆手にとり「朝の5時からディナーをやる」と宣伝した。その結果、常連さんをはじめとしたたくさんの人たちが、朝からBOCCOに集合したのだ。
「走り始めたばかり、ここで立ち止まるわけにはいかないですからね。」
ギスギスした巣ごもり生活に疲れた人たちは、きっと楽しく集まれる場所を求めていた。山田さんは、大変な状況を発想の転換で面白くしたというわけだ。
④「変わらないのは嫌い」進化し続けるBOCCOの味
BOCCOの反骨精神は、60種類以上の料理を全て1から手作りしているメニューにも強く表れている。
「変わらない味というのが、僕はあまり好きではありません。ですから味をいつも変えているんです。メインはもちろん、ニンジンのマリネやポテトサラダのような付け合わせも変えています。」
BOCCO・DECCO・GATTOのコンセプトのひとつに、Evolution(進化)があるという。
「何事も変化して、進化しないと面白くないですよね。前に来た時と味が変わっていると、おいしいねと言ってもらいたいんです。もちろん、逆においしくないと思われるリスクもあります。しかし、それも僕やお店にとっての成長のきっかけだととらえています。万が一、味が落ちたと指摘されたら、じゃあどうすればいいかと考えることができるからです。ずっと同じ味だとつまらないし、安定はするかもしれないですが、刺激はなくなってしまいますよね。いかにレベルを上げていくかを考えるのも、仕事をする上での楽しみなんです。」
その想いは山田さんだけでなく、3つのお店を支える他のスタッフの皆さんも同じだ。
「レシピ通りに作ってもらうだけだと、機械と変わらないですからね。日々、自分で考えて動いてもらっています。うちのスタッフは経営的な感覚を備えた人ばかりなんです。みんな、僕がいなくても独立してやっていける人ばかりなんです。みんな、ここで一緒に働くのが面白いと言ってくれていますが、仮に独立したいと言っても引き留める気はさらさらないですし、何ならお店を譲ってもいいと考えています。」
言葉の端々から、山田さんがスタッフの方々を信頼し、任せているのがうかがえる。反骨精神がある人は、反骨精神がある仲間を引き寄せるのだ。
BOCCOのメニューのおすすめを尋ねてみたところ、「全部」と返ってきた。
「おすすめは全部です。魂を込めてつくっていますからね。」
そうきっぱりと断言する山田さん。
ちなみにこの取材は2024年の秋に実施したのだが、秋ナスなど季節を感じられる食材がふんだんに使われている。中でも「自家製ベーコンと秋ナスのアヒージョ」は、ベーコンの旨味とオリーブオイルの香りを吸ってタプタプになった熱々の秋ナスを楽しめる、イタリアワインがぐいぐい進みそうな一品だ。
「ただ、一見のお客様にBOCCOの良さを伝えたい場合は、グランドメニューの気まぐれ前菜盛り合わせをおすすめしています。8品くらいの前菜が食べられるので、このお店はこういう味なんだとBOCCOの料理のイメージが湧いてくるはずです。」
もし犬山城を訪れる際は、まずぜひBOCCOの気まぐれ前菜盛り合わせを注文してみてはいかがだろうか。


⑤フルマラソン2時間43分のベストをもつ
毛色の異なる3つの店舗を経営し、日々、アクティブに活躍する山田さん。まだ詳細は明かせないが、新たなお店の構想もあるという。そんなパワーの源は2つある。
1つは、プライベートでずっと続けているというランニングだ。
「うちにはランニングサークルがあって、お客様も参加しています。20人以上のメンバーがいて、代表は僕ですが、別に僕がいないときも、自分たちで自由に活動しています。このチームの活動の幅を、今後はもっと広げていきたいですね。たとえばサークルのトレーニングが終わったら、キッチンカーで乾杯みたいなことができたらいいなと思っています。」
めちゃくちゃ楽しそうだ。ちなみに山田さんはどのくらい走るのだろうか?
「2日に1回、12km走っています。だいたい1kmを4分くらいで走るので、12kmだと1時間切りますね。店休日には30kmのランニングを行っていて、フルマラソンのベストは2時間43分です。」
しんどいな、つらいな、今日はやめておこうとはならないのだろうか。
「ランニングは、自分にとってリラックスするための手段なんですよ。普段ずっと仕事のことを考えて、常に誰かと接しているので、一回リセットしたいときに、ランニングします。ランニングは、身体と向き合い、会話するための手段なんです。」
40代を超えて3店舗を経営する体力の秘密、それがこのランニングだったというわけだ。
⑥1日1日、今日もやりきったと思える人生にしたい
そしてもう一つの源。山田さんを突き動かしているものがある。それが最後に伺った座右の銘だ。
「人は死ぬ、です。」
めちゃくちゃシンプルだ。確かにどんなにお金持ちだろうが、偉業を成し遂げた人だろうが、死だけは平等に訪れる。しかし、なぜそれが座右の銘になったのだろうか?
「僕は過去に2度、事故で死にかけた経験があり、幼馴染や友人も病気や事故で亡くなっています。また、介護の仕事でも多くの方の死に携わってきました。自分の横で朝ご飯を食べていた人が、その日の夕方には冷たくなっているということが多くあったんです。人の死にたくさん触れてきたからこそ、無駄な時間を使えないと痛感しています。」
子どものころは、未来が無限に広がっていると信じて疑わなかった。しかし時間は有限だ。30、40と年齢を重ねるにつれ、少しずつそのことに気づかされていく。
昔はニュースで有名人の訃報が流れても「よく知らない人だな」と思っていた。しかしだんだん、自分が親しんできた、あこがれていた人の訃報に接する機会が増えて来る。
「時間は有限です。しかもそのリミットは、誰にもわからないんですよね。明日死ぬかもしれないし、もしかしたら今日死ぬかもしれない。後悔しないように、常に今できることを精一杯やっておきたいんです。人の生き方は自由です。のんびりとした人生もありだと思います。しかし僕は、1分足りとも時間を無駄にしたくないと考えています。金銭や経済的なことよりも、今日もめちゃくちゃ頑張った、やり切ったと思えることに幸せを感じるんです。」
限られた時間の中で最大限の努力を尽くし、常に前進する姿勢。そして「変わらないのは好きじゃない」というあくなき探求心。
飲食業界は常に激しい競争にさらされているが、BOCCOやDECCO、GATTOが支持され続けている理由の一端が見える。
BOCCOは、おいしい料理と親しみやすい雰囲気だけでなく、山田さんの情熱と人生哲学がぎゅっと詰まった特別な場所。犬山城を訪れた際は、ぜひ少しだけ足を伸ばして、BOCCOに立ち寄ってみてほしい。

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