飲食業
犬山市

スペシャルティコーヒーと自家製スイーツの憩いカフェ「86coffee」を訪ねてみた。

スペシャルティコーヒーと自家製スイーツの憩いカフェ「86coffee」を訪ねてみた。
JESSE <small>ジェシー</small>
JESSE ジェシー
モーニングって本当に素晴らしい文化だと思わない?
MEI <small>メイ</small>
MEI メイ
たしかに、トーストとゆで卵が無料でついてくるなんてお得よね~
JESSE <small>ジェシー</small>
JESSE ジェシー
今日なんて4件はしごしちゃったよ!4回も朝ごはん食べれちゃうなんて、すごく得した気分♪
MEI <small>メイ</small>
MEI メイ
・・・お得どころか、ちょっと豪華なランチ代くらいいっちゃってるわね・・・
犬山市五郎丸にある「86coffee(ハチロクコーヒー)」をご存じだろうか。
スペシャルティコーヒーと自家製ドーナツが自慢の、地域に愛されるお店だ。今回は、店主の野村 侑加(のむら ゆか)さんに、開業までの道のりから店舗運営のこだわり、今後の展望までお話をうかがった。
今回のツムギポイント
  • フードトラックが繋いだ運命の場所
  • 敷居は低く、クオリティは高く
  • 地域に根差す「自分らしい」働き方
  • 細く長く、日々に寄り添う存在へ

①フードトラックが繋いだ運命の場所

 

質の高いコーヒーと自家製スイーツで地元に愛されている『86coffee(ハチロクコーヒー)』。心地よいナチュラルアンティークを基調とした店内は、ソファー席やカウンター席を備え、天井からは美しいドライフラワーが吊るされ、訪れる人にやすらぎと活力を与えてくれる場所だ。

 

以前は好んでコーヒーを飲まなかったという野村さんだが、20歳ごろに飲んだスペシャルティコーヒーに心を奪われ、コーヒーの世界へと引き込まれた。

 

「普通の缶コーヒーなどとは全く違ってすごく飲みやすいし、『なんだこれは!』と大きな衝撃を受けたのを覚えています。」

 

その体験が、野村さんの人生を大きく変える転機となった。その後はさまざまな経験をするなかで、それまで漠然と抱いていた「自分の店を持ちたい」という想いが明確になっていった。その後、より知識と技術を深めるため、自家焙煎のコーヒーショップに就職した。

 

「お店を持ちたい気持ちが強くなったんですが、もっと知識を磨かないと、自分の店を持つことはできないと感じたんです。」

 

その後、アルバイトと並行してフードトラックでの販売をスタートした野村さん。ハチロクコーヒーの名は、この頃に「深煎りを淹れる際のお湯の温度(86℃)」と「呼びやすく覚えてもらいやすい4文字」を組み合わせて誕生した。偶然にも、店の名前を聞いて車のハチロクオーナーが訪れるという嬉しい副産物も生まれたという。

 

フードトラックの活動を通じて着実にファンを増やしていた頃、大きな転機が訪れる。出店していた場所の近くにあった喫茶店の居抜き物件を紹介されたのだ。当初は「まだ時期ではない」と一旦はお断りしたものの、実際に店を訪れた際に感じた「心地良く落ち着ける空間」と、設備をそのまま引き継げる好条件に心を動かされた。

 

「岐阜でお店をやりたいとも考えていたこともあり、この地での開店を最初は迷っていたんですが、お店を見てすぐに決めました。お話を聞いて、これはぜひやりたいと。何かに背中を押されているような気がしました。」

 

20243月、さまざまな不安や葛藤を乗り越え、縁を感じた愛知県犬山市で実店舗の開業を決断。これまでに培った経験や知識を活かしつつ、「本当に自分自身がやりたいこと」をふんだんに盛り込んだ、こだわりの詰まった空間が誕生した。

 

②敷居は低く、クオリティは高く

 

ハチロクコーヒーの特徴は、「クオリティへの妥協なき追求」と「誰もが立ち寄れる親しみやすさ」の両立だ。これは、野村さんが掲げる「敷居は低く、クオリティは高く」というモットーの表れでもある。

 

提供されるスペシャルティコーヒーは、季節や気温の移ろいに合わせ、豆や焙煎時間を日々調整している。コーヒー豆は、自ら足を運び、試飲して感銘を受けたロースターに直接交渉して卸してもらっているという。

 

「この方が焙煎した豆を使っている他のカフェで飲んだ時に本当に美味しいと感じて、すぐに連絡して、豆を卸していただくお願いをしました。」

 

焙煎は信頼できるロースターに任せることで安定した品質を確保し、野村さんは「お客様の口に入る、最終工程である抽出」に全精力を注ぐ。

 

店の顔となる「ブレンド№1(深煎り)」は、野村さんの情熱とこだわりが詰まった一杯だ。一方、ブレンド№2(中煎り)は、フルーティーで華やかな味わいを追求し、軽い飲み心地を好む方にも喜ばれている。さまざまな好みに合わせて提供が可能なため、コーヒーに詳しい方からそうでない方まで、コーヒーの奥深さを体感できるお店となっている。

 

フードメニューは、喫茶店文化が根付く愛知ならではのラインナップと、コーヒーに合う自家製スイーツで構成されている。定番のモーニングサービスに加え、終日楽しめるメニューとして、小倉トースト、ミックスサンド、ピザトーストなどもあり、地域の人々の普段使いに寄り添っている。

 

特に、コーヒーと相性が良く、子どもも安心して食べられる自家製ドーナツはハチロクコーヒーの看板商品だ。このドーナツは、国産小麦の「春よ恋」を使用し、揚げ油には酸化に非常に強い「しらしめ油」を選定するなど、素材選びから徹底的にこだわっている。

 

「どうせ作るなら国産のものを使いたいですし、安心してお子様に食べてもらえることが大切だと考えました。」

 

また、店舗空間にも細やかな工夫が凝らされている。女性が一人でも気兼ねなく入れるようカウンター席と、友人同士やカップル、小さなお子様連れでもゆっくりと過ごせるソファー席を用意。この高品質な商品と、誰もが歓迎される親しみやすい空間こそが、野村さんが追い求めた空間であり、ハチロクコーヒーが愛され続ける魅力のひとつである。

 

③地域に根差す「自分らしい」働き方

 

野村さんが最も大切にしているのは、「自分らしさ」を活かした働き方であり、その想いが店舗の運営スタイルにも強く反映されている。ハチロクコーヒーは、おひとり様はもちろん、お子さま連れを含むすべてのお客様への心からのおもてなしを大切にしている。

 

「女性おひとりでも気兼ねなく、本当に美味しいコーヒーを楽しんでいただけるお店って意外と少ないんですよね。店主の私が女性であることで、安心して立ち寄っていただけると嬉しいです。」

 

どんな仕事が自分に合うのか模索していた時期もあったが、「コーヒー」という天職に出会ってから一変したという野村さん。

 

「自分がこんなに長く、飲食業界で10年以上も仕事が続けられるなんて、本当に幸運に恵まれたと感じています。」

 

経営面では、派手な事業拡大よりも、やりがいを追求することを優先。自分のペースとクオリティを維持することこそが最善のおもてなしに繋がると確信しているという。そのため、あえて従業員を雇わず、全てを自分の手で完結させるスタイルを継続している。

 

この「自分らしい」生き方を支えるのが、野村さんが大切にする「Love myself(=自分自身を愛する)」という言葉だ。自分を責めてしまいがちな性格だからこそ、まず自分を肯定し、満たしていくことが、良い店づくりに繋がると信じている。

 

「まずは自分を大切にしないと。すぐに自分を責めてしまう性格なので、常に心がけています。」

 

目下の課題として、「セルフプロデュース」の難しさを挙げる。こだわりの深さをうまく伝えられていないと感じる部分もあるそうだが、今後はこうした発信にも積極的に挑戦していきたいと意欲を見せる。他店の成功を見て刺激を受けることもあるが、「過去の自分と比べて、成長していけたらいい」と、常に前向きな姿勢を保ち、「自分が本当にやりたいこと」を追求し続けている。

 

④細く長く、日々に寄り添う存在へ

 

野村さんが目指すのは、事業拡大ではなく「生涯現役」を貫くこと。そこには、「自分の信念を大切に、一つの仕事を長く続ける人生」を送りたいという想いがあるのだという。

 

「前のマスターのように80歳まで続けられたら嬉しいですね。自分のこだわりを追求しながら情熱を注げる仕事を、細く長く続けていけたらと思っています。」

 

お店としては、テイクアウトにも対応し、美味しいコーヒーを通じて「地域になくてはならない憩いの場所」となることを目指している。

 

「『家の近くにあったらいいよね』と言われるような、普段使いしていただけるお店を目指しています。週に1回、2回と、何かあった時にちょっと美味しいコーヒーやドーナツをサクッと楽しめるような、地域のみなさんの生活に寄り添う存在になりたいです。」

 

現在も実店舗とフードトラックの二軸で活動しているが、より安定した店舗運営に注力するため、今後は実店舗に軸足を移していく意向だという。しかし、フードトラックでの活動も可能な限り継続し、地域やイベントへの貢献を大切にしたいと語る。

 

コーヒーとの運命的な出会いから、フードトラック、そして実店舗へと、着実に地域に根を下ろしている野村さん。「クオリティへの妥協なき追求」と「誰もが気軽に立ち寄れる敷居の低さ」という、一見相反する価値観を見事に両立している。

 

野村さんが心を込めて淹れる特別な一杯が、訪れる人々の日常を優しく彩り、これからも地域住民の憩いの場所として、細く長く愛され続けていくだろう。犬山を訪れた際には、ぜひ一度、美味しいスペシャルティコーヒーと自家製ドーナツを味わいに、足を運んでみてはいかがだろうか。

 

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