飲食業
一宮市

お出汁に癒される「釜揚げ饂飩 鈴家(かまあげうどん すずや)」を訪ねてみた。

お出汁に癒される「釜揚げ饂飩 鈴家(かまあげうどん すずや)」を訪ねてみた。
JESSE <small>ジェシー</small>
JESSE ジェシー
最近、讃岐うどんにハマっててさ〜。この前、本場の香川まで食べに行ったんだよ!
MEI <small>メイ</small>
MEI メイ
わざわざ香川まで?ほんと好きね。愛知にも美味しいお店あるのよ。
JESSE <small>ジェシー</small>
JESSE ジェシー
そうなの?じゃあ愛知でも、蛇口ひねったらうどん出てくるのかな?
MEI <small>メイ</small>
MEI メイ
出るわけないでしょ。香川は出汁は出るけど、うどんは出てこないわよ・・・
この記事は約7分で読めます。
一宮市にある「釜揚げ饂飩 鈴家(かまあげうどん すずや)」をご存知だろうか。

店主の鈴木 啓太(すずき けいた)さんが手がける、本格讃岐うどんを味わえるお店だ。実は鈴木さんのご両親が和食料理屋を営んでいた思い出深い場所でもある。今回は鈴木さんに、うどん職人への道のりや、地域に根ざした店づくりへの想いなどを伺った。
今回のツムギポイント
  • ご両親の店舗を受け継ぎ、新たな挑戦へ
  • 香川での衝撃的な出会いがきっかけ
  • 地元農家とのつながりを大切に
  • コロナ禍で実感した地域の温かさ
  • お出汁で世界が平和になる

①ご両親の店舗を受け継ぎ、新たな挑戦へ

 

本格的な釜揚げうどんの専門店である「釜揚げ饂飩 鈴家」。店名の由来は、やはり鈴木さんの苗字から来ているのだろうか?

 

「そうなんです。鈴木の鈴から名前を取りました。それと、自分の家のような温かい店にしたいと思って、家を入れて鈴家にしました。」

 

実際の店内は、まるで誰かの家に招かれたような温かな雰囲気に包まれている。訪れる人が敷居の高さを感じることなく、気軽に立ち寄れるような空間づくりを大切にしている。

 

「お客様には“鈴木家に来た”という気持ちで過ごしていただけるよう、スタッフ全員でお迎えしています。遊びに来たような感覚で、気軽に集まれるアットホームな場所にしたかったんです。」

 

現在の店舗は、実は鈴木さんが5歳の頃からご両親が和食料理屋を営んでいた場所だ。子ども時代をそこで過ごした経験が、今の店づくりにも大きな影響を与えている。

 

店名の「釜揚げ饂飩」という表記は、鈴木さんが修業した大阪の「釜揚げ饂飩唐庵」から取ったもの。ゆでたてのうどんを提供するという意識の表れでもある。

 

②香川での衝撃的な出会いがきっかけ

 

鈴木さんがうどんの職人を志したのは、意外にも奥様の四国お遍路がきっかけだった。

 

「当時は蕎麦屋になろうと思っていたんです。蕎麦が好きでしたからね。ただ、蕎麦って少し敷居が高い雰囲気があって、知識やうんちくが求められる世界でもあると思います。そういう風習が僕にはちょっと難しいと感じていました。」

 

そんな時、奥様が香川県でのお遍路中に食べたうどんの美味しさに感動して帰ってきた。鈴木さんは半信半疑だったが、実際に香川を訪れることにした。

 

「仕事が終わってから、香川まで車で5時間ほどかけて行きました。一日で6軒、7軒くらいはしごして食べたんですが、もうびっくりするくらい美味しかったんです。今まで食べていたうどんは何だったんだろうと感じるほどでした。」

 

そう、その時の衝撃を振り返る鈴木さん。

 

「香川で食べたのは、打ち立て茹でたてだったのですが、本当に美味しすぎて衝撃でしたね。これを僕の地元の人に食べてもらいたいと考えたんです。」

 

最初は香川での修行を検討した鈴木さん。しかし香川県のうどん屋の形を、そのまま愛知に持ち込むには大きな問題がある。

 

「香川のお店は一杯200円、300円という価格帯で提供しているところが多いんです。でも、そのモデルをこの土地に持ってきても経営としては成り立たないと思いました。この辺では、香川の人のように毎日うどんを食べる方ばかりではありませんからね。」

 

そこで鈴木さんは、ビジネスモデルとしても参考になる修業先を探した。

 

「名古屋に香川の製麺機を作っている会社があるんです。そこのセミナーで、全国の繁盛店を紹介する場面がありました。その中の一軒が、修業先となる店だったんです。」

 

大阪の住宅街にあり、郊外で駅からも近くはない立地にもかかわらず、大繁盛している店だという説明に興味を持った鈴木さんは、実際に足を運んで食べてみることにした。

 

「想像以上に素敵なお店で、味も本当に美味しかったですし、適正な価格がきちんと設定されていて、『自分にとって理想の形』だと感じました。」

 

さらに決め手となったのは、大将の人柄だった。

 

「カウンターに座っていたのですが、とても美味しかったので『ごちそうさまでした』と声をかけたんです。すると、ものすごく忙しい最中にもかかわらず、わざわざこちらを振り返って『ありがとう』と言ってくれたんですよ。その瞬間に、ここで修業したいという気持ちが強くなり、お願いしました。」

 

こうして鈴木さんは、「釜揚げ饂飩唐庵」で約1年間の修業を積むことになった。

 

③地元農家とのつながりを大切に

 

うどんづくりで、鈴木さんが特にこだわっているのが「時間」だ。

 

「その日に作ったうどんだけを提供しています。そして、茹でてから15分以上経ったらお客様には出しません。15分というのは、結構シビアですが、生地の状態はそのときの天気や湿度によって変わります。だからこそ、そのときベストな状態のものをお客様にはご提供したいんです。」

 

この徹底した品質管理に、鈴木さんの職人としてのプライドと、お客様への想いが込められている。自慢の品は、修業先で学んだものを鈴家流にアレンジしたカレーうどんだ。

 

「修業先がカレーうどんが人気の店だったんです。実は親方が修業した香川のお店があるんですけど、そこも香川ではカレーうどんが有名で、テレビでも紹介されるようなお店だったんですよ。そうした環境で学んできたこともあり、私自身も自然とカレーうどんに強いこだわりを持つようになりました。」

 

この取材中に、人気のカレーうどんをいただいた。一般的なうどん屋さんが提供する甘めの和風カレーではなく、しっかりとスパイスを効かせた本格派のカレーだ。まさに「大人のカレーうどん」であり、カレーうどんを食べた後にご飯を追加注文する人も多い人気商品となっている。

 

地元との結びつきを大切にした店づくりを心がけている。天ぷらに使われている野菜も、地元の農家の方が作ったものだ。

 

「創業にあたり、できるだけ地元の農家さんとつながりを持ち、食材を提供していただきたいと考え、さまざまな方を紹介していただきました。農家の方が実際にお店へ食べに来てくださることもあり、ご自身が育てたお米や野菜をお客様が美味しそうに召し上がっている姿を間近でご覧いただけます。飲食業は生産者の方々がいて初めて成り立つ仕事ですから、そのつながりを大切にしていきたいと思っています。」

 

さらに、鈴木さんは実際に生産現場まで足を運ぶことも多いという。

 

「現場に行くのが好きなんです。現場を見ると、毎日こんな大変な思いをして、うちに届けてくれているんだ。こんな大変な仕事を毎日やってくださっているという感謝の気持ちが湧いてきます。」

 

鈴木さんは、農家の現場に足を運ぶことで生産の苦労を実感し、感謝の気持ちを深めている。地元の農家を単なる仕入れ先ではなく、共に支え合う大切な存在として関係を築いている。

 

④コロナ禍で実感した地域の温かさ

 

2020年のコロナ禍は、多くの飲食店にとって大きな試練となった。鈴家も例外ではなく、鈴木さんはその時期に地域の人々の温かさを改めて実感したという。

 

「著名な方々が相次いで亡くなられたこともあり、社会全体に強い不安が広がったと思います。コロナ禍でも気をつけながら来てくださっていたお客様も、その頃からぱったりと足が遠のいてしまいました。」

 

店舗を一時閉鎖し、テイクアウトのみの営業に切り替えた鈴木さん。そのときに、思いがけない体験をした。

 

「普段は厨房にいるので、お客様と接する機会がほとんどなかったんです。私も『ありがとうございました』、お客様も『ごちそうさまでした』だけで、それ以上の会話はなかなかできませんでした。」

 

ところが、テイクアウトに変わり商品の受け渡しの時に、マスク越しにお客様から温かい言葉をかけられたのだ。

 

「お客様に『いつも美味しくいただいてるよ、店が再開したら来るから頑張ってね』と、たくさんの方から声をかけていただいたんです。皆さん何回も見たことがあるお客様だけど、一言も喋ったことがなかった方たちが、こんなにうちのことを愛してくださっているんだと気づきました。そしてもっとお客様とお話ししたいなと思いました。」

 

この経験をきっかけに、鈴木さんはお客様との交流をこれまで以上に大切にするようになった。マルシェなどのイベントにも積極的に参加し、以前は一週間近く店舗にこもりきりになることもあった生活から、外に出て地域の空気を感じる機会を増やしていった。

 

「昔から来てくださっているお客様に『本当に変わったね、前はもっとピリピリしていたよ』と言われたんです。人と会うことで自然と気持ちがリフレッシュされて、ここでの活力にもつながっています。いい循環だなと感じますね。」

 

一時期は店舗を畳むことも考えたが、お客様の温かい言葉に支えられて続けることができたのだそうだ。

 

⑤お出汁で世界が平和になる

 

取材中にいただいた温かい出汁は、しっかりとした味わいで、本当にホッと落ち着く味だった。鈴木さんの今後の夢は、この出汁を多くの人に届けることだ。

 

「お出汁をもっと気軽に使っていただけるような商品を開発して、お届けしたいと考えています。例えば忙しいお母さんが帰宅して、冷凍しておいたこのお出汁をサッと解凍し、野菜を煮込めばすぐに美味しいスープができあがる。そんな便利で役立つ商品にしたいんです。」

 

その背景には、鈴木さんの深い想いがある。

 

「大げさに聞こえるかもしれませんが、本気で、お出汁を家庭で広く使うようになれば世界はもっと平和になると思っています。お出汁が身近で手軽に使えるようになれば、子どもにも安心して食べてもらえる食事が増えて、結果的に心にもゆとりが生まれるはずだと考えています。」

 

そんな鈴木さんの座右の銘は「ありがとう。おかげさま」だという。

 

「何事も自分ひとりの力ではないということを、常に実感しています。生産者の方々やお客様、スタッフ、そして家族。多くの人の支えがあって成り立っているんです。自分ひとりでできることなんて本当にわずかで、そのおかげで今こうしてお店を続けられている。この感謝の気持ちを忘れずにいたいと思っています。」

 

皆さんが「ちょっと疲れたな」「今日はしんどいな」と思った時に、温かいお出汁でほっと一息つける場所でありたいと語る鈴木さん。鈴木さんの優しい人柄と感謝の心が生み出す温かい味わいを求めて、今日も多くの人が暖簾をくぐっている。おいしいものを食べて癒やされたい人は、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

 

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