“白い百合”のように、凛と優しく「喫茶リブロン」を訪ねてみた。





レトロな純喫茶の佇まいの中、約65種類のグラスが並び、どこか懐かしいお店の雰囲気と昔ながらの軽食をいただく事ができる。店主の白石 優理美(しらいし ゆりみ)様。元・自衛隊員という異色の経歴でありながら、会社を起こし飲食業へ進んだ。多彩な経歴を持ちながら、なぜこの地で喫茶店を始めたのか。詳しいお話を伺った。
- 気品高く縁起の良い名前
- 働き方を自分で決めるということ
- レトロ好きの心をくすぐる純喫茶
- 昭和生まれに響く“刺さる空間”
- 喫茶店のその先にある夢
- ”今日が一番若い”
①気品高く縁起の良い名前
「リブロンの由来は、フランス語で“白い百合”からきています。」
店名の由来を尋ねると、白石さんはそう教えてくれた。
“ユリ”は自身の名前にも重なる花。フランス語で「百合=リ(リズ)」「白=ブラン」、それを語呂良く並べ、「リブロン」と名付けた。
「四文字で“ン”で終わると縁起が良いと聞いたこともあって。”白い百合”で語呂も良くまとめました。」
何気なく聞こえる名前の響きに、意味と願いを重ねたそうだ。

②働き方を自分で決めるということ
店名の由来をお伺いした後に、喫茶店を始めるにあたったきっかけもお伺いしてみた。
「今は元気なんですけど、子供が病気だった事もあり、普通の会社勤めというのが難しかったんです。」
そのため、最初は時間の融通が効く個人業として清掃の仕事を始めたという。
なぜ清掃のお仕事だったのだろうか?
「前職でリフォーム関係の仕事をしていました。そこから少しお仕事をもらっていました。その流れでアパートに住んでいる方が保険に入っていない・更新をしていない方がいて大家さんが困っているという話を聞いて資格を取って保険も始めました。」
きっかけは清掃業だったが、保険にも派生し会社としてスタートを切ったというのだから驚きだ。リフォーム関係から清掃業・保険ときて飲食業界へも…。
非常に手広く手がけられていると思うが飲食業を手掛けたのはなぜだったのだろう。
「前々から余裕ができたタイミングで、“飲食はやりたいな”って思っていました。」
これまた驚きの経歴なのだが、なんと白石さんは元々自衛隊員。お父様が自衛隊員をされていた事もあり、入隊したのだ。しかし、飲食をやりたいという想いがなくなる事はなく、ご自身で貯めた費用で再度専門学校のカフェクラスへ。
その後、今の仕事を始められ、この場所は当初掃除道具をしまう倉庫として利用を考えていた。
「掃除道具の倉庫として考えていたんですけど、タイミングも相まって”じゃあやってみよう”となりました。」
今の自分と環境に向き合い、最善の中でやりたい事を始めたのだ。それは2021年、コロナ禍の緊急事態宣言中だった。
③レトロ好きの心をくすぐる純喫茶
今は自他共に認めるレトロな純喫茶。
「最初は真っ白なカフェにしようと思ってたんですよ。でも、場所柄もあって“純喫茶”の方が合うかなと感じました。」
そんなレトロ感漂う喫茶リブロンだが、白石さんの趣味でもあるレトロ雑貨「アデリアのグラス」がさらに雰囲気作りを加速させている。
「全部で65種類くらいあります。お客様の気分で選んでもらっています。結構好評なんです。」
グラスが選べる喫茶店。若者のSNS投稿で話題になり、DMで「行ってみたい」と言ってくれる人も増えたという。
実際に喫茶リブロンのSNSを拝見してもらえればわかるのだが、本当に様々な模様や柄のグラスでいっぱいなのだ。中には国民的キャラクターのグラスもある。
同じ飲みのものであっても雰囲気が全然変わる。是非その時の気分で楽しんでみてもらいたい。
食事メニューも“純喫茶の王道”。ナポリタン、オムライス、カレー、そして固めのレトロプリン。
「プリンは色々と考えましたが、”あえて”昔ながらの固めのプリンにしています。味も美味しいって褒めてもらえるんですよ。」


④昭和生まれに響く“刺さる空間”
昭和レトロな空気感。店内に流れる洋楽は1960年代のアメリカ音楽。
ファミコンのようなレトログッズも置かれ、訪れた人が自然と懐かしい気持ちになれる仕掛けが随所にある。
「やっぱり、昭和生まれの方に刺さる空間だと思ってます。」
「若い人にももちろん来てほしいですけど、一番刺さるのは私と同世代、昭和世代の人たちかもしれないです。」
SNSでお店を知って訪れる若者もいれば、近所のおじいちゃん・おばあちゃんがふらりと立ち寄ることもある。客層の幅広さも、この店ならではの魅力の一つだ。

⑤喫茶店のその先にある夢
「今はまず、この喫茶店でちゃんと自走できるようにしたいんです。」
現在はリフォーム業と並行しながら運営しているが、最終的には“喫茶店だけで回る状態”が理想だという。
そしてもうひとつ、大きな夢がある。
「ゆくゆくは、障がいをお持ちの方も働けるような場所をつくりたいと思っています。」
白石さんの想いは構想段階だが、子ども食堂のような取り組みや、障がいを持つ方でも安心して働くことの出来る環境を目指したいとのことだ。
「今すぐは難しいんですが、5年後10年後になるかもしれないですけど、何かしら形にしたいと思っています。」
この喫茶店は、夢の“現在地”であり、未来へ向かう“起点”でもあった。
⑥”今日が一番若い”
そんな白石さんに日々大切にしている言葉や考えはないかをお聞きしてみた。
「座右の銘はないんですよ(笑)。」
そう笑いながらも白石さんは素敵な言葉を教えてくれた。
「座右の銘なんて大袈裟なものではないですが、あえて言うなら“今日が一番若いから、今日が一番できる”かな。」
実は、白石さんは「喫茶ボニー」という別の喫茶店も経営している。二店舗目を引き継ぐとき、体力的にも迷いがあったそうだ。それでも、“今やらなければきっとできなくなる”と、自らを奮い立たせた。
「正直、50代でやれって言われたら、無理だと思います。だから“今”なんです。”今が一番若いから今ならできるんです”。そうやって考えているので、前に進むことができるんです。」
一歩を踏み出すこと。それは、理想をカタチに変えるための第一歩でもある。白石さんは、そう信じて今日もキッチンに立ち続けている。
“白い百合”に込められた優しさと、過去の経験が織りなす柔らかな芯の強さ。「喫茶リブロン」は、店主・白石 優理美さんの人生そのものが映し出された場所だった。
レトロな空間に流れるゆったりとした時間と、刺さるプリン。そこには、“今日が一番できる日”という前向きな信念と、お客様へのまっすぐな想いが溢れていた。
この小さな喫茶店が、次の10年にどんな花を咲かせるのか。その未来が、今から楽しみでならない。


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