大人になってもワクワクする体験を!パンで“楽しい瞬間”をお届けする「WAKU WAKU PAN」を訪ねてみた。





看板商品の「ミルクハース」のほか、毎日店内で焼き上げられる、工夫を凝らした多彩なパンが好評のお店だ。 今回は、パン職人の大西 潤(おおにし じゅん)さんに、開業の背景や大切にしている考え、今後の展望まで幅広くお話をうかがった。
- 手作り体験を通して「ワクワク」と「食への関心」を提供
- なによりも「楽しむこと」を重視
- 「こだわりを持たない」というこだわり
- 「楽しむ」心が生み出す、挑戦の原動力
①手作り体験を通して「ワクワク」と「食への関心」を提供
白と黒を基調としたシックで落ち着いた内装が特徴の「WAKU WAKU PAN(ワクワクパン)」。2024年6月のオープン以降、地元の素材を使用した独自のレシピと、ひとつひとつ丁寧に焼き上げられる多彩なパンが評判を呼び、地域住民に愛され続けている。
この「WAKU WAKU PAN」というキャッチーな名前には、年齢を重ねるにつれて日常の中で驚きや楽しさを感じる機会が減っていったとしても、パンを通じて「子どもだけでなく大人にもワクワクする瞬間を届けたい」という想いが込められているそう。
オープンのきっかけは、自身のパン教室をより多くの人に知ってもらうためだったという。もともと、独立と同時にオンラインのパン教室を始めた大西さんだったが、まずは、自身が作るパンの味を知ってもらい、そこからパン作りへ興味を持ってもらう必要があると考え、「WAKU WAKU PAN」の開店を決意した。
少子高齢化が進む現在、どの業界も「次世代を担う若者の減少」という課題に直面している。また、パティシエや料理人が「なりたい職業ランキング」から姿を消しつつある現状についてこう語る。
「若手の育成ももちろん大切ですが、それ以前に“若手が入ってきやすい環境”を作らないと、パン業界全体が衰退してしまうと思っています。パン作りを通して『作る楽しさ』や『食への関心』を育むことで、将来パン職人を目指す人が増えてくれたら嬉しいです。誰かが率先して環境づくりをしないと、目指す人そのものが減ってしまうので、僕がその役割を果たしていきたいんです。」
そう熱く語る大西さん自身が幼少期にパン作りやお菓子作りを通して「食」に興味を持ったように、ワクワクするような楽しい体験を通して、若者がパン職人に夢や憧れを抱くような環境を作っていきたいという願いがある。
②なによりも「楽しむこと」を重視
専門学校の製菓コースに進学したものの、将来への不安を感じ、進路に迷っていた大西さん。そんな中、恩師からのアドバイスが人生の転機となったという。
「周りは器用な子が多くて、自分には向いてないのかなと思うこともありました。製菓コースでは月に数回パンの授業があり、パン作りについても学びました。進路について悩んでいた時に、恩師から『パン屋さんの道もある』と言われたんです。」
恩師からの一言をきっかけに、パン職人としての道を選んだ大西さん。専門学校卒業後は神戸の有名ホテルへ就職、製パン課に4年ほど勤め、多くの経験と知識を得た。しかし、安定した環境で働き続ける選択肢もある中で、“楽しむこと”を重視し、退職を決意した大西さん。
退職後はフランス・パリへ短期滞在し、日本との文化の違い、本場ならではのパン作りの奥深さに触れたという。帰国後、ベーカリーでの勤務と並行して、独立に向けた準備を進めてきた。
「休日を利用して少しずつオンラインパン教室の動画撮影や編集を始めました。『なんとかなるでしょ』という気持ちが大きかったので、うまくいかなくても引き返すという考えはなかったですね。もう片足を踏み入れていたので、たぶん両親も反対できなかったんだと思います(笑)。進むしかない、“背水の陣”状態でした。」
そう笑いながら振り返ってくれたが、右も左も分からない状態での独立への道のりは、困難の連続だったに違いない。前だけを見て進み続けた大西さんの行動力には脱帽だ。
現在は、専門学校の外部講師としての活動も行っており、パン教室は不定期で開催している。今後はバランスを取りながら、パン教室の定期開催とSNSの投稿にも、力を入れていきたいと意気込みを語ってくれた。


③「こだわりを持たない」というこだわり
「WAKU WAKU PAN」の看板商品であるミルクハースは、水の代わりに牛乳を使用しており、しっとり柔らかな食感が特徴だ。もちろんミルクハースだけでなく、カウンターに並ぶアイデア溢れるパンの数々は、どれも好評だ。
愛知県産の小麦粉を使用し地産地消を実践するなど、材料や製法に強いこだわりがあるのかと思ったが、「こだわりを持たないことがこだわり」だと話す大西さん。詳しくうかがってみると、常にお客様の声に耳を傾け、リクエストをもとに新商品を開発しているのだという。
「いま並んでいる塩チョコパンや、りんごのカスタードパンといった人気商品も、お客様の『こういうパンが食べたい』という声から生まれた商品なんです。『じゃあ僕が作りますよ』って。毎週1個でもいいから新しい商品をお試しで出してみて、お客様からの反応が良ければ商品化しています。今後もこの取り組みは続けていきたいです。」
「WAKU WAKU PAN」では、季節感を楽しめる限定メニューも好評だ。春には「いちごクリームパン」、夏には「レモンカスタードデニッシュ」、秋には「栗のデニッシュ」や「さつまいもスティック」、冬には「シュトーレン」といった商品が登場する。お客様の声に耳を傾ける柔軟なスタイルと、シーズンごとに新たな味を楽しめるメニュー展開によって、訪れる度に“ワクワク”する気持ちを生み出してくれる。
「僕自身が人と話すことが好きというのもありますし、お客様との会話の中で思わぬ発見があったりするので、接客は楽しいですね。」
お客様との交流を大切にしており、接客を楽しみながら自身も多くの学びを得ているという。大西さんのフレンドリーで親しみやすい人柄も、多くのお客様を引きつけてやまない理由のひとつだろう。

④「楽しむ」心が生み出す、挑戦の原動力
独立から約1年が経過し、確かな実力と持ち前の行動力で、順調にファンを増やし続けている「WAKU WAKU PAN」。今後の展望や夢をうかがってみた。
「今後は、少しずつマルシェやイベントへの出店を増やしていきたいです。あと、スタジオを作って、そこでパン教室、料理教室、お菓子教室を開きたいという人たちに先生をしてもらうという構想も描いています。」
自身の行動指針は“楽しむこと”だと話す大西さん。これは幼少期からずっと変わらず、これまでの人生の分岐点でも、“楽しそうな方”を選ぶことが多かったそう。
「“楽しい”じゃなくて“楽しむ”なんです。何をやるにしても常に“楽しむ”こと。講師をしている専門学校の生徒たちにも『何事においても、しんどいこと、思っていたのと違うみたいなことってたくさんあると思うけど、そんな中でも楽しめる部分が絶対にあるはずだから、それを見つけて楽しいものに変えちゃえ!』と、伝えています。考え方で180度変わるので、思考の転換が大切だと思っています。」
取材の最後に、大西さん個人の夢をうかがってみた。
「“誰かの夢になる“ことです。僕自身がこの業界に憧れたように、今度は僕自身が、誰かにとっての憧れ、目指してくれるような存在になりたいです。」
地域に密着したパン屋として、人々に“ワクワク”を提供し続けている「WAKU WAKU PAN」。大西さんが作るパンの味や手作り体験は、未来のパン職人が生まれる「きっかけ」になるに違いない。今後のさらなる発展と飛躍に期待したい。

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